「彼が私を解放するはずがないことは分かっている」
鈴木月瑠は椅子に寄りかかり、少し目を細めながらゆっくりと言った。「いつか戻るとすれば、それは全ての清算をするためだ」
池田滝「……」
月瑠姉の言葉の意味は、一人でデルタ全体と戦うつもりということか?
「一つ聞きたいことがある」
鈴木月瑠は意味深な笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。「5年前、デルタの物理研究所は、各国に新型放射性物質を提供したのではないか?」
池田滝は少し戸惑った。「天然の放射性物質?」
鈴木月瑠はうなずいた。「その物質は日本に送られた。他の国々にも配布されたが、理化学研究所だけが研究中に事故を起こした」
「その結果、20人の研究者が亡くなった」
「あなたのお祖父さんは数年前に退職したばかりだけど、この件について聞いたことはある?」
彼女は池田滝は知らないだろうと思っていたが、彼の祖父は医学研究所の人間で、年齢を重ねてから退職したので、
もしかしたら聞いているかもしれない。
「絶対知らないはずです」
池田滝は考えもせずに答えた。「祖父は生涯医学一筋でしたし、それに国内の研究所の事情は外部に漏れることはありません」
「私たち二人は7年前からデルタにいませんし、デルタの事情にも関わっていません。あなたも知らないなら、私はなおさら知りません」
そしてその時期は、鈴木月瑠が小林城の手術を終えてから2年後だった。
國醫の名手の名声は国内外で知られ、各勢力が國醫の名手の所在を探していた。
鈴木月瑠は村に戻って実験を続け、身を隠して生活していた。
少し間を置いて、池田滝は提案した。「でも、伽藍がまだいるじゃないですか。彼女に探りを入れてもらえば」
「彼女には期待していない。私が直接調べる」
鈴木月瑠は淡々と口角を上げ、タバコの火を消した。「切るわ。火紋玉の件の調査は続けてね」
電話を切ると、髪にタバコの匂いが付いていたので、鈴木月瑠は立ち上がってシャワーを浴びた。
……
鈴木月瑠が病院を去ってしばらくすると、江川みずきが薬を持って栗本放治の病室に入った。
「栗本様」
江川みずきが入室した時、ちょうど栗本放治が片手でスマートフォンを操作しており、唇には笑みを浮かべていた。