第419章 兄弟の彼女を想うべきではない

「彼が私を解放するはずがないことは分かっている」

鈴木月瑠は椅子に寄りかかり、少し目を細めながらゆっくりと言った。「いつか戻るとすれば、それは全ての清算をするためだ」

池田滝「……」

月瑠姉の言葉の意味は、一人でデルタ全体と戦うつもりということか?

「一つ聞きたいことがある」

鈴木月瑠は意味深な笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。「5年前、デルタの物理研究所は、各国に新型放射性物質を提供したのではないか?」

池田滝は少し戸惑った。「天然の放射性物質?」

鈴木月瑠はうなずいた。「その物質は日本に送られた。他の国々にも配布されたが、理化学研究所だけが研究中に事故を起こした」

「その結果、20人の研究者が亡くなった」

「あなたのお祖父さんは数年前に退職したばかりだけど、この件について聞いたことはある?」

彼女は池田滝は知らないだろうと思っていたが、彼の祖父は医学研究所の人間で、年齢を重ねてから退職したので、

もしかしたら聞いているかもしれない。

「絶対知らないはずです」

池田滝は考えもせずに答えた。「祖父は生涯医学一筋でしたし、それに国内の研究所の事情は外部に漏れることはありません」

「私たち二人は7年前からデルタにいませんし、デルタの事情にも関わっていません。あなたも知らないなら、私はなおさら知りません」

そしてその時期は、鈴木月瑠が小林城の手術を終えてから2年後だった。

國醫の名手の名声は国内外で知られ、各勢力が國醫の名手の所在を探していた。

鈴木月瑠は村に戻って実験を続け、身を隠して生活していた。

少し間を置いて、池田滝は提案した。「でも、伽藍がまだいるじゃないですか。彼女に探りを入れてもらえば」

「彼女には期待していない。私が直接調べる」

鈴木月瑠は淡々と口角を上げ、タバコの火を消した。「切るわ。火紋玉の件の調査は続けてね」

電話を切ると、髪にタバコの匂いが付いていたので、鈴木月瑠は立ち上がってシャワーを浴びた。

……

鈴木月瑠が病院を去ってしばらくすると、江川みずきが薬を持って栗本放治の病室に入った。

「栗本様」

江川みずきが入室した時、ちょうど栗本放治が片手でスマートフォンを操作しており、唇には笑みを浮かべていた。