大橋森も斉田勝の弟子で、大橋伊華の実家の甥で、大橋伊華はこの甥をとても可愛がっていた。
大橋森と遠藤音美は同門の兄妹なので、大橋伊華も遠藤音美を気に入っており、ずっと遠藤音美を息子の嫁にしたいと思っていた。
「もっと良いお茶?」
遠藤音美は驚いて笑った。「この新しいお茶は先月、Y国のジョセリンプリンセスから頂いたもので、皇室最高級のお茶です。」
「師匠が今まで飲んだどのお茶よりも、数倍良いものです。」
彼女はそう言いながら、大橋森を見た。
大橋森は遠藤音美の意図を理解し、説明した。「師匠が飲んだ良いお茶というのは、師匠がよく話す先輩が淹れたお茶のことです。」
「なるほど。」
遠藤音美は理解し、口元に薄い笑みを浮かべた。「師匠の言うその先輩にお会いできる機会はありますでしょうか?」
「あの子は冷淡な性格で、見知らぬ人との付き合いを好まない。」斉田勝はお茶を一口すすった。
鈴木月瑠のあの子が淹れたお茶を飲んでから、他のお茶を飲んでも味がしないように感じるようになった。
鈴木月瑠のことを思い出し、斉田勝の表情は明るくなり、笑って言った。「いずれ機会があれば、その時にまた話しましょう。」
当時、鈴木月瑠が即興で作った曲に、彼は感動を覚えた。
彼は鈴木月瑠にHeZaの影を見出し、弟子にしたいと思い、さらには海外の最高峰の音楽学院への留学も勧めた。
しかし鈴木月瑠に断られた。
その後、鈴木月瑠の姿は消えた。
今、彼は鈴木月瑠の消息を聞き、すぐに帝都に戻ってきた。
なんと、月瑠が鈴木家のお嬢様だったとは、これで鈴木月瑠は自分から逃げられないぞ!
「はい。」
遠藤音美は優雅に微笑んで応じたが、目を伏せると、その瞳に不快な色が過った。心中穏やかではなかった。
彼女は斉田勝が最も可愛がる弟子だった。
しかし思いもよらなかったことに、斉田勝がこのような親しげな口調で、他の女性を呼ぶことがあるとは。
遠藤音美は気付かれないように口角を下げ、軽蔑的な態度を見せた。
師匠と付き合いのある人なら、きっと三十代後半のおばさんだろう、それなのに「あの子」だなんて!
「師匠、以前HeZaが日本でピアノコンクールの審査員を務めるという話を聞きましたが、コンクールが延期になった今も、HeZaは審査員を務めるのでしょうか?」