第515章 生みの親は不明

鈴木月瑠が病室を出ると、橋下香里が一橋貴明と話をしているのが見えた。

一橋貴明は背が高く、長年の高い地位のせいか、オーラが強かったが、橋下香里の前では常に控えめだった。

彼は礼儀正しく立ち、頭を下げて、真剣に橋下香里の話を聞いていた。

その様子を見て、鈴木月瑠は近づかず、壁に寄りかかって片足を曲げ、腕を組んで、悠然とその光景を眺めていた。

しばらくして、橋下香里が横を向いて、やっと鈴木月瑠が立っているのに気付き、笑って声をかけた。「月瑠ちゃん。」

一橋貴明が顔を上げて見た。

鈴木月瑠はキャンディーの包み紙をゴミ箱に捨て、ゆっくりと歩み寄った。その姿は怠惰そのものだった。

一橋貴明は自然な動作で、鈴木月瑠の手を握った。「終わった?」

鈴木月瑠はゆっくりと「うん」と答えた。

「この前の手術の後、橋下おばさんがお礼を言う前に帰ってしまったわね。」

橋下香里は鈴木月瑠を見つめ、優雅な表情で、優しく話した。「今回は急いで帰らないで、おばさんが食事に招待するわ。」

鈴木月瑠は断らなかった。

エレベーターに入る時、一橋貴明は鈴木月瑠の肩を抱き、深い眼差しで尋ねた。「斉田様は何を話したの?」

それを聞いて、鈴木月瑠は彼を一瞥し、意味ありげな笑みを浮かべ、目尻に色気を含ませて言った。「当ててみて。」

……

食事の場所は病院からそう遠くない所で、高級店ではないが、雰囲気が良く、清潔で、味も悪くなかった。

橋下香里は鈴木月瑠の好きな料理をたくさん注文した。

鈴木月瑠は自分の好きな食べ物に関しては、決して贅沢を言わなかった。

途中、一橋貴明は電話を受けに外に出て、そのまま会計を済ませた。

橋下香里が会計しようとした時、このことを知り、金額は大したことなかったが、一橋貴明への印象がさらに良くなった。

食事の後、鈴木月瑠と一橋貴明は橋下香里を病室まで送り、ついでに斉田勝を見舞って、帰ることにした。

鈴木月瑠は車に乗るとすぐに眠くなった。

鼻先に、男性の清々しい香りが漂ってきた。

鈴木月瑠は我慢できずに尋ねた。「今日、香水つけてる?」

「そういうの使わないよ。」一橋貴明は彼女を横目で見た。

鈴木月瑠は眉を上げた。「じゃあ、なんでいい匂いがするの?」