第514章 金を騙すのはいいが、色を騙すのはダメ

一橋貴明は鈴木月瑠の後について歩き、瞳は深い色を湛えていた。

橋下香里も音楽の才能があったが、斉田勝ほど有名ではなく、彼女は文学の方面で有名で、ノーベル文学賞も受賞していた。

つまり、月瑠は斉田勝とも親友なのか？

一橋貴明は眉を上げ、依然として笑みを浮かべながら「あなたがHeZaですか？」と尋ねた。

鈴木月瑠はゆっくりと顔を上げ、男性の黒く沈んだ瞳と目が合うと、だらしなく笑って「HeZaは妖艶な雰囲気なのに、私にそんな要素があると思う？」と言った。

一橋貴明「……」

彼は化粧っ気のない鈴木月瑠を注意深く観察した。

少女の顔立ちは実際とても魅惑的だったが、彼女は化粧を好まず、性格も冷たく、笑わないため、その魅力は抑えられていた。

もし彼女が化粧をすれば、雰囲気は全く違うものになるだろう。

正直なところ、一橋貴明は彼女がHeZaである可能性は十分にあると感じた。

「本当にあなたではないのですか？」一橋貴明は眉目を上げながら尋ねた。

鈴木月瑠は手を自然に体の横に下ろし、眉を上げて笑い、軽くてゆっくりとした声で「私じゃないけど、知り合いよ」と答えた。

一橋貴明は口角を上げ、にこやかに「中村楽？」と言った。

華子から聞いた話では、中村楽は音楽が好きだったはずだ。

鈴木月瑠の知り合いの中で、妖艶な雰囲気を持っているのは中村楽くらいしかいないようだった。

「うん」鈴木月瑠は頷いた。

そう言いながら、彼女は病室のドアを開けて入った。

二人が入ってきた時から、斉田勝は鈴木月瑠と一橋貴明が手を繋いでいるのを見つめており、橋下香里と同じような反応を示していた。

一橋貴明は斉田勝の方を向き、礼儀正しく「斉田様」と声をかけた。

一橋貴明の声を聞いて、斉田勝は視線を移し、淡々と頷いて「一橋さん」と返した。

そう言いながら、彼は再び鈴木月瑠を見つめ、まるですべてを見通したような目で「だから音楽に興味を示さなかったのか、恋愛に夢中になっていたとはな」と言った。

鈴木月瑠は気配を抑えながら、一橋貴明の方をちらりと見て、再び斉田勝を見つめ、高慢に頷いて「ああ」と答えた。

斉田勝「……」

「一橋さんの目は確かに良いですね。誰を選んでもいいのに、よりによって私の後継者を選ぶとは」斉田勝は一橋貴明を見つめながら、胸が詰まる思いだった。