第555章 嘘をつくのに歯が抜けるのも恐れない

鈴木月瑠と中村楽は隅に座っていた。彼女はマスクをつけ、目だけを見せて、ゆっくりと口を開いた。「錦栄の株価が暴落寸前よ」

「見たわ」

中村楽はスマホをスクロールしながら、無関心そうに言った。「華子がやったの。もう下がらないはずよ」

「見事なものね」鈴木月瑠はゲームで誰かを倒した。

「中村楽、なぜここにいるの?」

そのとき、驚いた声が聞こえた。

中村楽が無関心そうに顔を上げると、帝都の柴田家のお嬢さんが近づいてきた。

柴田お嬢さんのドレスに目が留まった時、中村楽は目を細め、その瞳に冷たい光が走った。

鈴木月瑠は瞬時に中村楽のオーラの変化に気付き、顔を上げて中村楽の冷たく野性的な横顔を見た。

彼女は中村楽の視線を追い、柴田夏美のドレスも目に入った。

「かつては華々しかった中村楽お嬢様も、今じゃただの法医になり下がったわね」

柴田夏美は中村霜と金子瑠衣と仲が良く、中村霜が中村楽と反目していることを知っていた。

彼女はここで中村楽に会うとは思わなかった。すぐさま軽蔑的な目で中村楽を見つめた。「ただの法医如きが、ここにいる資格なんてあるの?誰に連れられて来たの?」

中村楽は冷淡な目つきで、その瞳には不明瞭な冷気を含んでいた。「そんな下品な口の利き方、お父様の私が人としての在り方を教えてあげる必要があるのかしら?」

座っていた鈴木月瑠がゆっくりと無声で笑った。マスク越しでも、彼女の上機嫌が伝わってきた。

彼女はスマホを握りながら、頬杖をついて、悠然とその様子を眺めていた。

柴田夏美は中村楽が恥ずかしがると思っていたが、結果は彼女の想像とは全く違った。

中村楽は恥ずかしがるどころか、むしろ軽蔑的で、見下すような態度で、言葉の端々に「お前なんてクズよ」という傲慢さを漂わせていた。

柴田夏美は顔を真っ青にして怒り、すぐさま手を上げて中村楽の頬を叩こうとした。

鈴木月瑠は目を細め、危険な眼差しを向けたが、動かなかった。

しかし中村楽の最も近くにいた理香の伊和井嘉は、反射的に柴田夏美を止めようとしたが間に合わず、ただ「中村楽!」と大声で叫ぶしかなかった。

叫び終わるや否や、伊和井嘉は呆然とした。

中村楽は周りの誰も見取れないほど素早く、片手で柴田夏美の首を掴み、腕を振った。