「そう言われても」と栗本放治は手を振って「必要ありません」
一橋貴明は彼を見つめたが、何も言わなかった。
竹内北は眉をひそめ、不思議そうに栗本放治に尋ねた。「栗本様は本当にあの件について、気にしていないのですか?」
「どうして気にしないことがありますか?」
栗本放治は目を細め、気にしない様子で言った。「まだその時ではないだけです」
一橋貴明は突然口を挟んだ。「確か何か国際大会があるんじゃないですか?デルタと国際組織が主催するやつ」
栗本放治は一橋貴明を見つめ、一橋貴明も彼を見返した。二人は視線を交わし、笑みを浮かべた。
暗黙の了解があった。
この大会は、国際生理科学連合(国際組織)とデルタが共同で主催するものだった。
業界で最も権威のある大会と言っても過言ではない。
そもそもデルタは各業界において、世界で最も発展した地域だった。
近年、デルタで開催される様々なサミットには、各国の著名な学者たちが殺到していた。
そして国際科学大会は4年に一度開催され、各業界を網羅する大規模な大会で、開催地はデルタだった。
多くの人々が夢見る、参加したい場所だった。
おそらく人生で一度きりのデルタ訪問のチャンスかもしれない。
何かを思い出したのか、一橋貴明は手の動きを止め、栗本放治を見つめ、さりげなく笑った。「天空に依頼を出せばいい」
「天空?」栗本放治は一瞬驚いた。
一橋貴明は眉を少し上げ、無関心そうに「Xに指定して依頼すれば、当時デルタの物理研究所が何をしたのか調べられる」
栗本放治は目を細め、気軽な口調で「Xはあまり依頼を受けないと聞いている。受けても気分次第だそうだ」
Xは天空が設立された当初のみ活発で、その後はXに関する情報はほとんど出回らなくなった。
ここ数年、Xは依頼を受けないわけではないが、この人物は気まぐれすぎて、依頼を受けるのは完全に気分次第だった。
運が良ければXに巡り会え、たとえ報酬が少なくても、Xは引き受けることもあった。
聞くところによると、Xが最後に依頼を受けたのは、南方家老の依頼だったという。
ふと思い出し、栗本放治は一橋貴明を横目で見て、薄く笑みを浮かべながら「鈴木月瑠は天空と関係があるのか?」
「ああ」一橋貴明はゆっくりと頷いた。