第587章 私の婚約者はあなた、ずっとあなただけ

「心配しないで」

鈴木月瑠は眉を少し上げ、目尻に笑みを浮かべながら、軽やかな声で言った。「あなたは私より金持ちだから、お金で私を買収できるわ」

一橋貴明は彼女と視線を合わせ、漆黒の瞳は鈴木月瑠を吸い込みそうなほど深かった。「お金だけ？」

「もちろん、他にも...」

鈴木月瑠は片方の口角を意地悪く上げ、指先で一橋貴明の顎をなぞった。「美貌よ。あなたは美貌で私を誘惑できるわ」

一橋貴明は満足げに笑った。

傍らの遠藤彦は見るに耐えなかった。「...」

彼は軽く咳払いをして、皆の注意を引き戻した。

「さっきまで鈴木月瑠が私生児だと言っていたのか？」遠藤彦は冷たい目で遠藤おもみを見つめ、威圧的な口調で言った。

遠藤おもみは冷や汗を流しながら、どもりながら口を開いた。「おじさま、鈴木月瑠の母親のことは、みんな知っています...」

「ふん！」

遠藤彦は冷笑し、噂話に興味津々の人々を一瞥した。「誰が鈴木月瑠は私生児だと言った？」

一瞬の間を置いて、彼の視線は鈴木月瑠に向けられ、非常に優しい声で一言一言はっきりと言った。「彼女は我が遠藤家の子だ！」

遠藤彦の声は大きくなかったが、はっきりと全員の耳に届いた。

宴会場は再び静まり返った。

全員が信じられない様子で遠藤彦を見つめていた。

遠藤彦は鈴木月瑠の前に歩み寄り、一橋貴明は自然と道を開けた。

遠藤彦は深い眼差しで鈴木月瑠を見つめ、慈愛の情が溢れていた。

彼は鈴木月瑠の頭を撫で、力強い声で言った。「鈴木月瑠は私と鈴木敏の実の娘だ。遠藤家のお嬢様なのだ！」

「...」

遠藤音美はさっきまで家柄で鈴木月瑠に勝っていると思い込んでいた。

しかし次の瞬間、遠藤彦のこの発言を聞いた。

彼女は驚愕して目を見開き、全身が衝撃を受けた。

頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。

目の表情さえも呆然として、まるで正気を失ったかのようだった。

全員が驚きの表情で鈴木月瑠を見つめ、そして遠藤彦を見た。

鈴木月瑠は確かに鈴木敏によく似ていたが、よく見ると遠藤彦に似ている部分もあった。

ちょうど宴会場に到着した遠藤紳史夫妻と一橋啓山夫妻は、前の出来事を見ていなかったが、遠藤彦のこの一言を聞いた。

数人は驚いて目を見開き、互いに顔を見合わせた。

これは...