第599章 遠藤家のお嬢様

中村楽の眉目に宿る冷たさは、すぐに消え去った。

彼女は少女から漂う乳香の香りを嗅ぎながら、唇の端に艶やかな笑みを浮かべ、軽やかな口調で言った。「いいわよ、抱っこしてあげる」

一橋貴明は空気を読んで黙っていた。

中村少華とその兄弟たちは顔を見合わせ、目の奥に複雑な感情を宿していた。

夢にも思わなかった、中村楽が彼らの実の姉ではないということを。

その間には、こんなにも奇妙な出来事があったとは。

「どうあれ、中村楽は俺たちの姉貴だ」中村静加は中村楽の姿を見つめながら、中村沛里と中村少華に低い声で言った。

中村沛里は中村静加を横目で見て、「言われなくても分かってるよ」と言った。

中村少華は何も言わず、唇を固く結んでいた。

たとえ中村楽が中村家の人間でなくても、彼らの心の中で、中村楽は永遠に彼らの姉なのだ。