第585章 神医はここに座っている

後から慌てて追いかけてきた三井教授と小原幻山は、無念そうに目頭を押さえた。

結局、一歩遅かったのだ。

必要な時には鈴木月瑠の身分を明かすことはできるが...今はそれも適切ではない！

安田おやじのこんなしょうもないパーティーのために身分を明かすなんて、まったく価値がない！

一橋貴明はすでにSNSの話題を抑える準備を整えていた。

頭上のシャンデリアの光が降り注ぎ、鈴木月瑠の影を長く伸ばしていた。

少女の顔は精巧な細工のように美しく、光と影が交錯して神秘的な雰囲気を醸し出していた。

周りの人々は鈴木月瑠を硬い表情で見つめ、唾を飲み込みながら、驚きのあまり舌を噛んでしまった：「ああ、きっと年のせいで聞き間違えたんだ。さっき大村先生は月瑠をなんて呼んだっけ？」

「風が強くて、私もよく聞こえなかった...」

「ここはどこだっけ？さっき何かあったの？」

「...」

皆、世間を知り尽くした名家の理香たちだが、この時ばかりは頭の中がパニック状態で、呆然としていた。

遠藤音美の脳裏に、突然安田大御爺さんの言葉が響いた—

鈴木月瑠は国家の至宝だ、お前にその身分を知る資格はない！

失言を自覚した針の大村は、慌てて口を押さえ、冗談めかして：「あいや、私は東北弁が強くてね」

「標準語が下手で申し訳ない、さっきは何も言ってないよ」

「月瑠姉って呼ぼうとしただけで、何も言ってないから、聞かなかったことにしてね...」

鈴木月瑠：「...」

一同：「？？？」

三井教授は針の大村を引っ張って、諭すように言った：「何を叫んでるんだ、月瑠姉に次のプロジェクト資金を止められたら大変だぞ！」

そう言いながら、にこやかに鈴木月瑠の方を向いた：「月瑠や、大村じじの戯言は気にするな、さっきは人違いだったんだ」

「皆さん、気にしないでください。大村じじは酔っ払って人違いをしただけですから、はは」三井教授は呆然とする人々を見渡した。

一同さらに心臓が止まりそうになって：「...」

安田大御爺さんと安田思明は怒り心頭だった。

木下のこの役立たずめ！

二山晴香はさらに驚愕して、目が血走っていた。

安田大御爺さんは倒れている二山晴香を一瞥し、ボディガードに命じた：「この女を、放り出せ！」

追い出すのと放り出すのとでは、大きな違いがある。