彼が何も言えないのを見て、鈴木月瑠は口角を少し上げた。
「もう遅いわ、帰りましょう」一橋貴明は鈴木月瑠の上着を整え、その動作は自然だった。
彼は振り向いて、車の中に用意した荷物を取ろうとした。
少女の白い手首が突然伸びてきて、彼の動きを遮った。
一橋貴明は振り向き、目に疑問の色が浮かんでいた。
鈴木月瑠は艶やかに口角を上げ、唇を指差しながらゆっくりと言った。「今、口紅が付いていないわ」
一橋貴明は一瞬固まり、瞳が揺れ、指先が少し縮こまった。
何かしようとした時、鈴木月瑠は突然つま先立ちになり、彼の首に手を回して、柔らかな唇を重ねた。
そして少女の甘い声が続いた。「ご褒美よ」
「満足した?彼氏さん?」
「……」
一橋貴明の呼吸が緊張した。
鈴木月瑠は彼の薄い唇から離れ、ゆっくりと笑った。「今度は私があなたに付け込んだわ。公平でしょう」