第617章 ただの花瓶

「そうなの?全然気付かなかったわ」遠藤音美は口角を引き攣らせ、手で髪を耳にかけながら、とても作り笑いで笑った。

鈴木月瑠は口角を上げ、ゆっくりとした口調で言った。「気付く必要なんてないわ」

リビングのクリスタルシャンデリアの柔らかな光の中、少女は怠惰そうにそこに座り、このように眉を上げて遠藤音美を見る時、その口角の弧は邪悪そのものだった。

遠藤音美の表情は徐々に暗くなり、見るに堪えないほどだった。

遠藤彦は当然、遠藤音美の状況を理解していたが、知らないふりをして言った。「音美、顔色が悪いけど、具合が悪いなら、かかりつけ医を呼んだほうがいいよ」

「叔父さん、大丈夫です。具合は悪くありません」遠藤音美は硬い笑みを浮かべ、指先を強く握りしめた。

遠藤彦は「本当に?」と尋ねた。