「妄想?私が?」
高倉海鈴は楽屋に戻ってきたばかりで、大きな騒ぎを耳にすることになった。彼女は腕を組んで、先ほど発言した女子学生を皮肉っぽく見つめた。
その女子学生は表情を硬くした。午前中の楽屋での出来事を思い出したようで、一歩後ずさりして人混みの中に身を隠し、声を出す勇気を失っていた。
高倉彩芽は人混みをかき分けて、心配そうな表情で高倉海鈴の手を取った。「お姉ちゃん、どこに行ってたの?さっき、コンテストに参加してないって人がいたけど...お姉ちゃん、みんなに参加したって言って!デザインが大好きなのに...」
「私は確かにコンテストには参加してない」
高倉海鈴は手を引き離した。
高倉彩芽は表情を凍らせた。「お姉ちゃん...」
彼女の声には悔しさと悲しみが混ざっていた。「どうして...お姉ちゃんどうして...」
どうして?
高倉海鈴は眉を上げた。当然、自分が審査員だからだ。
「安心して、すぐに分かるわ」
高倉海鈴は彼女を深く見つめた。
その眼差しに、高倉彩芽は心の中に不安を感じ始めた。
その時、ステージの司会者がマイクを軽く咳払いした。「皆様、静かにお願いします。これより東京大学ファッションデザインコンテストの優勝者を発表いたします!皆様ご存知の通り、今回のコンテストは本校史上最大規模となり、藤原財閥の総裁である藤原徹様、そして謎の山内正先生をお迎えすることができました!」
司会者の言葉が終わると、照明係がスポットライトを審査員席に向けた。
藤原徹の端正な顔が大スクリーンに映し出された。
「うわっ、めっちゃイケメン!」
「藤原財閥の総裁ってこんなに若いの!知ってたらコンテストに参加したのに!」
「嘘つけ、知ってるぞ、お前は隣の経営学部の学生だろ!」
「でも山内先生は?司会者が来てるって言ってたじゃない?」
時々経済紙に登場する藤原徹と比べて、学生たちは謎めいた山内正先生により興味を持っているようだった。
しかし...
山内正先生が座るはずの席は、今は空席だった。
学長は谷口敦に目配せを送り、人はどこだと尋ねた。
谷口敦も焦っていた。ずっと高倉海鈴に電話をかけ続けていたが、誰も出なかった!