谷口敦は躊躇なく手を上げた。「木村校長、食事は適当でもいいですが、発言は慎重にすべきです。山内先生はいつ高倉彩芽を弟子として認めたというのですか?」
木村校長は「でも以前は...」
「以前は以前、今は今です」
谷口敦は真面目な表情を見せた。「山内先生は私の紹介で東京大学の臨時講師として来ていただいたのです。学生を指導するのは教師としての責任です。もし山内先生に指導を受けた学生全員が弟子を名乗るなら、山内先生は対応できないでしょう」
山内先生の代講の情報は限られた範囲でしか知られておらず、オンライン授業のため、学生の前に姿を見せたことはなかった。
藤原徹は高倉彩芽の名前を聞いて眉をひそめた。間違いなければ、高倉海鈴の妹が高倉彩芽だったはずだ。
木村校長は谷口敦に言い負かされ、苦笑いしながら「はい、はい、私が間違っていました。軽率な発言でした」と謝った。
ファッションデザインコンテストが始まろうとしていたため、木村校長は立ち上がって藤原徹に別れを告げた。
藤原徹は審査員として大会の最終段階に出席できるが、学校幹部として、先に学生を応援しに行かなければならなかった。
学校幹部たちが事務室を出た後、谷口敦は大の字になって椅子に寝そべった。
「徹、こっそり山内先生に会わせようか?直接提携の話をしたら?」
「必要ない。他に用事がある」
藤原徹はスーツの裾を整えながら立ち上がった。「コンテストでまた会おう」
「えっ、どこに行くの?」
「妻に会いに行く」
「妻に会いに...」
谷口敦はしばらく反応できなかったが、やっと理解すると飛び上がった。「えっ!徹、今なんて言った?!」
妻?!
いつ妻ができたんだ?!
高野広は親切に説明した。「社長は先日奥様と入籍したばかりです」
「嘘だろ、騙すなよ!」
谷口敦は彼を指差した。「徹と結婚するはずだった村上家の令嬢が入籍当日に逃げ出したって聞いたぞ。花嫁が逃げたのに、誰と入籍したっていうんだ!」
高野広は眼鏡を直しながら「あなたの知らない人です」と答えた。
谷口敦は「...」
高野広は表情が崩れた谷口敦を無視し、早足で藤原徹に追いついた。藤原徹は振り向きもせずに命じた。「あの女を車に呼べ」