高野司は続けて言った。「奥様、それにフランスのファッションショーにもご招待が来ていますし、先週の1億円のデザイン案もまだ催促が来ているんです。時間を見つけて描いていただけませんか。」
「確かにとてもお忙しくて、毎日の休憩時間も足りないのですが、京都一の富豪の婚礼衣装ですので、できるだけ早めにお願いします。」
八尾夢子の顔から笑顔が一瞬で消えた。
高野広は呆然としていた。いつから兄がこんなに話せるようになったのだろう?
兄が口を開いたからには、高野広も負けじと言った。「兄さん、何を言ってるんですか。奥様がデザインしなくてもいいじゃないですか。毎日たくさんの人が衣装のデザインを依頼してきますが、全部引き受けるわけにはいきません。それに社長がいるんですから、奥様が何もしなくても、誰も何も言えないでしょう?」