第274章 犬カップルとの偶然の出会い

しかしすぐに、高倉海鈴の心の中でまた響いた——

——「でも今は、もう行かないことに決めたの」

その言葉を聞いた男性は、心が震え、彼女をしっかりと抱きしめた。

……

高野司と高野広は外で待っていたが、奥様が出てこないので、二人の会話が聞こえてきた。

兄弟は目を合わせ、そっと立ち去った。

「社長がこんな言葉を言うのを初めて聞いたよ。奥様の前でしか、冷たい仮面を外すことはないんだろうな」

「社長にとって、陸田家なんて相手にもならないさ。やる気になれば、一瞬で東京から消せるんだから」

「でもそれは悲しまないということじゃない。社長がどんなに強くても心はある。奥様に時々悲しくなると打ち明けられるということは、奥様を完全に信頼しているってことだよ」

高野司は笑みを浮かべた。「奥様がいるおかげで、社長も人間味が出てきたね」

以前の社長は冷酷な鬼のような人だったが、今では少し優しくなった。

高野広:「……」

彼は驚いて口を開いた。「兄さん、なんで社長に人間味が出てきたって言うの?前は犬だと思ってたの?」

高野司はドアが開くのを見て、心臓が飛び出しそうになった。弟の言葉が止まらなくなることを恐れ、必死で目配せをした。

しかし高野広は彼の意図が全く分からず、兄も自分の意見に同意していると思い込んだ。「俺はずっと社長って犬みたいだって言ってたじゃん。給料全部没収されるし、こんな犬みたいな上司いないよ。兄さん、目に何か入ったの?なんでずっと目を瞬きしてるの?」

高野司は藤原徹が口角を上げるのをはっきりと見て、高野広の命が危ないと感じ、目が痙攣しそうなほど瞬きを続けた。

「その目、かなり深刻そうだね。早く病院行った方がいいんじゃない?」高野広は興奮して叫んだ。「今日は最高に嬉しいよ。やっと兄さんも認めてくれた。大声で言っちゃおう、社長は本当に犬だ——」

「ああ、その通りだな」藤原徹の声がゆっくりと聞こえてきた。「そんなに私が犬なら、もう私の側にいる必要はないだろう」

「……」高野広の笑顔は一瞬で消え、完全に凍りついた。

彼は顔面蒼白になり、急いで高野司の側に駆け寄り、涙ながらに言った。「なんで社長が後ろにいるって教えてくれなかったの?何を聞かれちゃったんだろう?」