しかしすぐに、高倉海鈴の心の中でまた響いた——
——「でも今は、もう行かないことに決めたの」
その言葉を聞いた男性は、心が震え、彼女をしっかりと抱きしめた。
……
高野司と高野広は外で待っていたが、奥様が出てこないので、二人の会話が聞こえてきた。
兄弟は目を合わせ、そっと立ち去った。
「社長がこんな言葉を言うのを初めて聞いたよ。奥様の前でしか、冷たい仮面を外すことはないんだろうな」
「社長にとって、陸田家なんて相手にもならないさ。やる気になれば、一瞬で東京から消せるんだから」
「でもそれは悲しまないということじゃない。社長がどんなに強くても心はある。奥様に時々悲しくなると打ち明けられるということは、奥様を完全に信頼しているってことだよ」
高野司は笑みを浮かべた。「奥様がいるおかげで、社長も人間味が出てきたね」