第492話 役を奪われる

この時、久保真美は撮影現場の監督控室にいた。

監督は熱心な表情で尋ねた。「久保さんは青山さんの妹さんですか?」

久保真美は微笑みながら、肯定も否定もせずに答えた。「私たち久保家と青山家は親密な付き合いがあって、私と青山博之は幼い頃からの知り合いです。」

監督はすぐに察した。久保真美が青山博之の妹でなくても、久保家のお嬢様であることには変わりなく、彼らには逆らえない存在だということを。

ただ、青山博之はこの役は自分が決めると言っており、久保真美と契約を結ぶには彼の同意が必要だった。しかし久保さんは出演料を要求せず、むしろ1000万円を投資し、男性主演の妹役を久保真美に演じさせることを要求してきた。

もし断れば、1000万円を断ることになるのではないか?

そのとき、プロデューサーが入ってきて、小声で言った。「青山博之さんは契約時に、この役には既に人選が決まっていると言っていました。もし久保真美さんと契約したら……」

監督は説得した。「その高倉海鈴は演技経験もなく、知名度もない。久保真美は一線級の女優だぞ。どちらが我々に利益をもたらすか、よく考えろ!」

「でも高倉海鈴の演技は本当に良くて、まるで専門家のようです。むしろ久保真美より上手いかもしれません。オーディションの映像もご覧になりましたよね。皆が彼女は適役だと……」

二人が小声で話し合っているとき、久保紫乃が突然叫んだ。「高倉海鈴?あなたたちが話しているのは高倉海鈴のこと?」

監督は顔を上げた。「ええ……この役は元々彼女に決まっていたんです。」

久保紫乃は冷笑した。「あの人は詐欺師よ!私と真美姉から大金を騙し取ったのよ。そんな演技経験のない人が真美姉と役を争うなんて、おこがましいわ。あの人が出演したら、この映画は台無しになるわ!私たちの真美姉は興行収入の保証よ。映画を台無しにする新人と、私たちの真美姉、どちらを選ぶの?」

久保真美は優しく声をかけた。「紫乃。」

そして落ち着いた態度で続けた。「私は高倉海鈴の作品を見たことがありません。おそらく専門的な訓練を受けていないのでしょう。そんな状態でどうやって映画をうまく演じられるでしょうか……でも構いません。もし既に役が決まっているのなら、仕方ありません。先約があるのですから。」