第540章 男の実力

藤原徹は彼女の赤らんだ頬と潤んだ瞳を一瞥し、すぐに理解した。

男は口角を上げ、「藤原奥様」と呼びかけた。

「え？」

「君が何を考えているか分かっているよ。よだれが垂れそうだ」

高倉海鈴は思わず口元を拭ってみたが、藤原徹に騙されたことに気付き、可愛らしく怒った。「徹、嘘つき！もう！」

男は彼女を抱き寄せ、柔らかな体を強く引き寄せながら、白い首筋と鎖骨に熱い視線を送った。「欲しいのか？」

まあ！あまりにも直接的すぎる！私はまだ赤ちゃんなのに！

高倉海鈴は顔を真っ赤にした。確かにこんな時にそんなことを言うのは適切ではないが、藤原徹がわざわざ寝室に連れてきたせいで、この雰囲気と環境に妄想せずにはいられない。

あの日の光景が突然頭に浮かんだ。藤原徹が彼女の上に覆いかぶさり、少し息を荒げながら、額の前髪が揺れていた。

高倉海鈴は考えれば考えるほど恥ずかしくなり、頬の紅潮が耳の後ろまで広がった。「徹、あの...」

「ん、もういい」男は冷たく遮った。「私を心配させた罰として、そんな考えは捨てて、すぐに下に降りて食事だ」

言い終わると、彼は先に寝室を出て行き、高倉海鈴をその場に呆然と立たせたまま去った。

高倉海鈴は気まずそうに口角を引きつらせ、その後ろ姿に向かって不満げに小声で文句を言った。

しかし、藤原徹は突然振り返り、高倉海鈴の怒った表情を目撃してしまい、嘲笑うように言った。「藤原奥様は私に不満があるようですね？」

高倉海鈴は気まずく笑い、両手で頬を挟んで大きな笑顔を作った。

「私が...不満なんてあるわけないじゃない！あなたが大好きで仕方ないのに！ははは...」

藤原徹は意味深な笑みを浮かべた。残念ながら今は高倉海鈴の本心が聞こえない。きっと面白いだろうに。

...

ダイニングにて。

高野司と執事は既に食事の準備を整え、社長と奥様の到着を待っていた。

しかし長時間経っても二人は降りてこず、高野司は不思議に思った。以前は社長が一人で生活していた時は、仕事が終わってから厨房に食事の準備を指示することが多かったが、奥様と結婚してからは食事の時間が決まっていたはずなのに、今日はこんな時間になってもまだ出てこない。

しばらくして、高野広が慌てて階段を降りてきた。