第592章 渡道ホールにスパイがいる

高野広は不思議そうに尋ねた。「社長のような冷血漢が、ペットを飼うなら獅子や虎のような猛獣を飼うはずなのに、なぜ子犬なんかを飼っているんですか?」

藤原徹は東京の帝王であり、裏社会では血に飢えた冷酷な男として知られていた。めったに怒ることはないが、決して関わってはいけない疫病神のような存在だった。

彼のような立場の人間が、捨て犬を拾って飼うなんて。確かに彼の性格とは相容れない。

高野司は真剣な表情で言った。「広、社長は噂ほど冷たい人間じゃないんだ。」

「実は心の底はとても優しい人なんだ。ただ、幼い頃の辛い記憶のせいで冷たくならざるを得なかった。偽りの仮面を被って、心の柔らかさを隠していたんだ。誰にも見透かされないように。」

「奥様が現れてから、少しずつ社長の心が溶けていって、仮面を脱ぎ捨てて、人間らしい人間になれたんだ。」