第672章 蓮の花灯籠に想いを託して

突然、井上冷夏は目が赤くなり、悲しそうに言った。「実は私にも責任があるんです。あの時もっと賢ければ、夏目彩美が秋の婚約者を奪うことはなく、彼女が故郷を離れることもなかったはずです。」

夏目秋の話が出ると、西村家の方々の目には悲しみが満ちていた。西村奥様は深いため息をつき、「海鈴、秋はもういないけど、あなたがいてくれて良かったわ。」

西村家の方々も前に出て高倉海鈴を慰めた。幼い頃から高倉家で育った海鈴は、このような愛情を受けたことがなく、心が温かくなった。

高倉家も久保家も、名目上の家族に過ぎず、本当の温もりを与えてくれなかった。しかし西村家は、彼女に真の家族愛を与えてくれた。

西村家の方々と別れた後、西村秀太が自ら車を運転して彼らを渡道ホールまで送った。藤原徹は彼女が道中無言なのを見て、邪魔をしなかった。

目の前の藤原徹には感情がなく、気にかける家族もいないため、当然高倉海鈴の悲しみは理解できないだろう。しかし、今の海鈴がとても悲しんでいることは分かっていた。

……

夜の10時。

高倉海鈴はもう就寝の準備を済ませ、ベッドに入ろうとしていた時、突然ドアをノックする音が聞こえ、高野広が静かな声で尋ねた。「奥様、社長がお出かけにお連れしたいそうです。夜は寒いので、暖かい格好をするようにとのことです。」

高倉海鈴は「うん」と返事をし、ベッドから起き上がった。こんな遅い時間に、藤原徹は彼女をどこに連れて行くつもりなのだろう?

二人は車に乗り込み、道中誰も話さなかった。車がどんどん人里離れた場所に向かっていくのを見て、高倉海鈴は我慢できずに尋ねた。「どこに行くの?」

藤原徹は冷たい瞳を開き、まるで深い泉のように波も感情もない眼差しだったが、高倉海鈴に向けられた時だけ、わずかな優しさが滲んだ。「もうすぐ着きます。」

車がゆっくりと停止し、高倉海鈴が顔を上げると、そこは静かな小さな庭園だった。この人里離れた場所で、この庭がこれほど清潔に保たれているのは珍しいことだった。