藤原徹は慵懶な声で言った。「おばあさまの誕生日が近いんだ。藤原家で誕生パーティーを開くから、その時は一緒に来てくれ」
高倉海鈴は頷いて承諾し、慌てて寝室を出た。
彼女が逃げるように去っていく姿を見て、藤原徹は口角を上げ、ベッドサイドテーブルの引き出しから一枚の紙を取り出した。そこには一行の文字が鮮明に書かれていた。【余計な考えは持つな】
藤原徹は昨夜眠りに落ちる前の温かい抱擁を思い出した。高倉海鈴の柔らかな手が彼の腰に回されていた時の感触は本当に堪らなかった。そして笑いながら一言残した。【突然、可愛い妻がいるのも悪くないと思えてきたな】
……
高倉海鈴が朝食を済ませると、藤原明から電話がかかってきた。「おばあさまが誕生パーティーを開くって知ってる?」
「全く分からないよ。おばあさまは体調も良くないのに、なんで誕生パーティーなんて開くんだろう。何か重要な発表があるって聞いたけど。海鈴、おばあさまへのプレゼント決めた?よかったら一緒に選びに行かない?」
高倉海鈴は藤原明の口調を聞いて、なぜツンデレな藤原徹が懐かしく感じるのか突然理解した。ツンデレな藤原徹は藤原明とそっくりだった。
ただし、藤原明は藤原徹ほど策略家ではないし、藤原徹のように甘えて抱擁を求めたりもしない。藤原徹のあの愛情を独占したがる様子は、まるで計算高い女のようだった。
可哀想な振りをして抱擁を求め、わざと時間を計算して、先輩に誤解させる。こんな意地悪なことができるのは、ツンデレな藤原徹だけだ!
高倉海鈴は少し黙った後、突然尋ねた。「藤原明、私と抱き合いたい?」
藤原明:「??」高倉海鈴は突然どうしたんだ?頼むから俺を巻き込まないでくれ!
ツーツー……
藤原明は慌てて電話を切った。彼は藤原徹が高倉海鈴の側にいるかどうか分からなかったが、直感的に電話を切るのが最善の自己防衛だと感じた。高倉海鈴に巻き込まれないように。
……
午後になって、高倉海鈴は藤原明と一緒に東京の歩行者天国に来た。
藤原明は言った。「おばあさまは粉彩陶器がお好きなんだ。ここに粉彩の透かし彫り花瓶を所有している店があるって知ってる。何度か来て、その花瓶を買おうとしたんだけど、持ち主が売ってくれなくて。縁のある人に売るって言うんだ。おばあさまの誕生日が近いけど、今回は買えるかな」