「実は、これは藤原徹の作品なんです。もしかして、藤原徹はおじいちゃんが好きだったあの画家なのかもしれません」高倉海鈴は探るように尋ねた。
「そんなはずがない!」山下涼介は即座に否定した。「海鈴、よく考えてみて。おじいちゃんは二十年も絵を描いてきて、突然あの画家のことを好きになったんだよ。あの画家はおじいちゃんよりもっと長く絵を描いているはずだけど、藤原徹は今年まだ二十六歳だよ。そんなことありえないでしょう?」
高倉海鈴は考え込んで、確かにその通りだと思った。おじいちゃんが好きだった画家は四、五十代のおじさんか、おじいちゃんと同年代の先輩画家のはずだった。
山下涼介は続けた。「たとえ藤原徹が絵の才能があったとしても、絶対におじいちゃんが好きだったあの画家ではないはず。それに数年前に調べたところ、あの画家はもうこの世にいないらしいんだ」
高倉海鈴は考え深げに頷いた。「そう考えると確かにありえないわね。藤原徹はまだ元気に生きているもの」
その時、入り口から足音が聞こえてきた。高倉海鈴は急いで振り向いて顔を上げると、まだコートを着たままの男性が、別荘に入るなり画室に愛する妻を探しに来たようだった。
高倉海鈴は即座に尋ねた。「徹、これら全部あなたが描いたの?誰に習ったの?あなたの絵のスタイルがある画家にとても似ているんだけど、でもその人は自分の絵を一度も公開販売したことがないの。その人があなたの先生?その人の名前は確か冬島志津っていうんだけど」
藤原徹はその名前を聞いて、目に笑みが浮かび、思わず優しく尋ねた。「君も彼の絵が好きなの?」
高倉海鈴は躊躇なく答えた。「好きよ!でもその画家はとても控えめで、作品もそれほど多くないの。私はほんの数点しか見たことがないわ」
彼女は心からその画家を尊敬していた。どの作品も完璧で、非の打ち所がなく、おじいちゃんも絶賛していたのだ。
「実は、あなたの画風が冬島志津にとても似ているわ。私はあなたが冬島志津なんじゃないかと思ったくらいよ!」高倉海鈴は笑いながら言った。
藤原徹は筆を取り、プロフェッショナルな姿勢でキャンバスに描き始め、さりげなく言った。「どうして僕が冬島志津じゃないと確信できるの?」