今、伊藤仁美と伊藤の奥様を見ると、昔の恨みが心に浮かび、忠司は全身から冷たい雰囲気を漂わせながら、「伊藤仁美は冬島音のことを言及したようだ。冬島音と高倉海鈴の関係を調べてみよう。高倉海鈴の実力からすれば、誰かの作品を盗作する必要なんてない。伊藤仁美は絶対に彼女を陥れようとしているんだ」と言った。
沙織もそう思っていた。クロシオのことは好きではなかったが、クロシオには確かな実力があることを認めざるを得なかった。そして、クロシオは高慢な性格で、盗作など決してしないだろう。
以前はクロシオが嫌いだったが、伊藤仁美と比べると、クロシオもなかなか可愛らしく思えてきた。しかも、クロシオと伊藤仁美は仲が悪い。敵の敵は味方だ。これからはクロシオとうまく付き合っていこうと決めた。
沙織と忠司は車に乗って地下駐車場に着き、パソコンを開いて冬島音の情報を調べ始めた。
「まさか!この冬島音もハッカーで、自分の情報を隠していたなんて。でも、お兄ちゃんが一流のハッカーでよかった。そうでなければ、解読できなかったかもしれない」
忠司は目を細めて、「冬島音が直接来て伊藤仁美の嘘を暴いてくれれば一番いいんだが、来なくても、伊藤仁美がクロシオを陥れるのを黙って見ているわけにはいかない。この数年間、伊藤仁美一家は良い暮らしをしすぎた。自分たちの罪を忘れてしまったようだ。そろそろ罰を受けるべき時だ」と言った。
言い終わるや否や、忠司は息を呑み、パソコンの画面を向け直して、嘲笑うように言った。「まさか、彼女が冬島音だったとは!」
沙織は急いでパソコンの情報を見て、その後沈黙に陥った。
しばらくして、沙織はため息をつきながら首を振った。「伊藤仁美が高倉海鈴が冬島音だと知ったら、気が狂うんじゃないかしら。こんなに長い間苦労して、毎回高倉海鈴に負けて、恥ずかしくないのかしら」
伊藤仁美は冬島音を利用して高倉海鈴を攻撃しようとしたが、高倉海鈴が冬島音だとは夢にも思わなかった。
この時、忠司はようやく、なぜこの十年間墨野静の側には高倉海鈴しかいなかったのかを理解した。「クロシオは本当に優秀だ。彼女と墨野静は同じタイプの人間なんだ」
……
展示会場内。
展覧会は二日目を迎えたが、まだ人で溢れていた。美術学院の教授も学生たちを連れて見学に来ており、広い会場は非常に混雑していた。