伊藤仁美は目を赤くし、唇を噛みながら、何か言いたそうな様子を見せていた。
その様子を見て伊藤の奥様は説明を始めた。「藤田若旦那、事の次第はこうなんです。斎藤さんが高倉海鈴さんに才能があると見込んで弟子にしたいと言ったんですが、高倉さんがそれを断りました。仁美は高倉さんと友達なので、少し諭そうとしたところ…」
伊藤の奥様は困ったような表情を浮かべた。「高倉さんが怒り出して、斎藤さんなど自分の師にはふさわしくないと言い放ったんです。斎藤さんは年長者として、その場で少し諭しただけなのに、高倉さんは斎藤さんの師匠である高橋研二郎先生のところへ告げ口に行ったんです。高橋先生は事情も分からないまま、斎藤さんが若い者をいじめたと思い込んで、怒って破門してしまいました。うちの仁美は単に修行したかっただけなのに、こんなことに…はぁ」