第788章 油絵の女神カーターさん

藤田炎は幼い頃から甘やかされて育ち、このような窮地に立たされたことは一度もなかった。家業は継がなかったものの、藤田家で最も寵愛された若坊様で、彼の機嫌を取ろうとする人は自然と多く、それに伊藤家の機嫌も同時に取れるというわけだった。

高倉海鈴が立ち去ろうとした時、突然一人の男に遮られた。その男は嘲るような口調で言った。「才能があったところで何になる?お前のような目上の人を敬わない者に成功なんて訪れないよ。伊藤さんを見てみろ。たった半月の学習で油絵展に参加できるんだ。これこそが本物の才能というものだ。お前に彼女に勝てるわけがない」

高倉海鈴が反論する前に、その男は軽蔑的な表情で続けた。「一部の人間は少しの才能で傲慢になる。本当の実力者は伊藤さんのように謙虚で礼儀正しいものだ。伊藤さんは斎藤さんを師として仰いでいるのに、なぜお前は拒むんだ?」

高倉海鈴はその男を冷ややかに一瞥し、その後伊藤仁美の方を向いた。伊藤仁美は申し訳なさそうに微笑み、まるで他人の言葉は自分とは関係ないと言わんばかりの、自分は無実だという表情を浮かべていた。

確かに伊藤仁美はそのような言葉を直接口にしてはいなかったが、周りの人々がそのように言い出したのは全て伊藤仁美の誘導によるもので、彼女と無関係ではなかった。

その時、外から突然騒がしい声が聞こえ、すぐに伊藤洋美が興奮した様子で駆け込んできた。「仁美姐!お母様!カーターさんがいらっしゃいました!」

会場は騒然となった。まさかカーターさんが直接来場するとは。彼女は国際油絵展の創設者の一人で、油絵界の第一人者だった。天賦の才に恵まれ、七歳で絵を学び始め、最初の一枚で油絵界を震撼させた。その後も順調に進み、世界油絵展の最高栄誉を獲得し、さらに数回の国際油絵展を主催した。

カーターさんは今では絵を描くことはなくなったが、毎年世界中を回って才能ある画家を見出し、直接指導している。そのため、数多くの優秀な油絵画家を育て上げ、慧眼の持ち主である油絵の女神と呼ばれている。

これまでの油絵展にはカーターさんは参加していなかったのに、今回突然現れた。皆は不思議に思った。一体どんな人物や出来事がカーターさんを直接ここまで来させたのだろうか?

伊藤の奥様は興奮を抑えきれない様子で尋ねた。「洋美、あなたは本当にカーターさんを見たの?何と言っていたの?」