伊藤仁美は有頂天になり、思わず笑い声を漏らしそうになった。
高倉海鈴をあんな汚らわしい場所に売り飛ばせば、彼女には逃げ出す機会など絶対にない。もう二度と藤原奥様になる資格もなくなる。佐藤家のような名家は、一度も会ったことのない娘なんて気にも留めないはず。ましてや高倉海鈴が本当に佐藤家の人間かどうかも確かではないのだから、彼女のために人手と物資を無駄にして大々的に捜索する必要もない。
これからは、もう誰も彼女の邪魔をする者はいなくなる。
伊藤仁美は目に残忍な色を宿しながら、説得を始めた。「お父様、あなたが優しい方だということは分かっています。でも、優しさを向ける相手は選ばなければいけません。高倉海鈴のような陰険で残虐な女にあなたの優しさは勿体無いです。父さんはいつも孝行者でしたから、きっとおじい様の意向に逆らうことはないですよね?」
周りの説得に、伊藤も深いため息をつきながら頷いた。
……
トラックは長時間走り続け、ついに午前8時頃にゆっくりと停車した。霊峰閣の人々は予めトラックの屋根に穴を開けており、藤原徹と共に車を降り、皆で人目につかない場所に身を隠した。
ドーン——
トラックの扉が轟音と共に開き、暗かった車内が一瞬にして明るくなった。
この時、高倉海鈴は地面に横たわり、両手を縛られたまま、ようやく目覚めたようなふりをして、力なく身をよじっていた。
二人の男が彼女を倉庫の中に引きずり込んだ。入るなり、周囲から聞こえてくる泣き叫ぶ声が耳に入った。それは全て誘拐されてきた女性たちの声だった。
彼女は表情を冷たくしながらも、まだ弱々しい演技を続け、人々に押し込まれるままに中に入っていった。
この倉庫は長い間放置されていたようで、しかも人里離れた場所にあった。誰も来ないような人気のない土地だからこそ、兄さんも彼らの本拠地を見つけられなかったのだろう。
「この女を上階の部屋に連れて行け。ただの女じゃないからな、しっかり見張っておけ。きっといい値が付くぞ!」
耳元で男の声が響き、その後高倉海鈴は上階の一室に閉じ込められた。部屋の中には薄い血の匂いが漂っていた。これまでに彼らがどれほど多くの女性を虐待し、どれほどの血を流してきたかが想像できた。