第902話 二股をかける

高倉海鈴は顔を上げることもなく、長い指でスクリーンを軽くタップしながら、冷淡な声で無関心そうに言った。「あなたにはまだその資格がありませんね。」

鈴木琴美は高倉海鈴を睨みつけ、悔しそうに言った。「あなたがここに座っているのに、私が会長に会えないなんておかしいわ。私はヘブンリー・エンターテインメントの部長よ！」

「ここは嵐エンタメの会長の席よ。あなたがここに座っているなんて、本当に教養がないわね！藤原奥様だからって好き勝手していいと思わないで。夏目さんは会長の友人なのに、あなたほど傲慢じゃないわ。恥を知りなさい！」

鈴木琴美は高倉海鈴の顔をじっと見つめ、突然閃いた。高倉海鈴の容姿は芸能界でもトップクラスの美女だ。こんな美人が会長のオフィスにいるということは、もしかして……

「あなたと嵐エンタメの会長はどういう関係なの？どう考えても、あなたはまだ藤原社長と離婚していないでしょう。名目上は藤原奥様なのに、こんなことまでするなんて。藤原社長の顔を全く考えていないわね！」

鈴木琴美は芸能事務所で長年働いてきて、こういうことは見慣れていた。売れない若手タレントが近道を選び、美貌を武器に男性を誘惑し、最終的に金持ちに引っかかるなんて珍しくない。でも高倉海鈴は藤原徹の妻なのに、藤原奥様の座を捨てて、年配の男性を誘惑するなんて？

「嵐エンタメの会長と藤原社長は友人同士なのに、あなたよくそんな大胆なことができるわね？藤原社長が知ったら、絶対に許さないわよ！」

ここまで言って、鈴木琴美は突然得意げな笑みを浮かべた。「でも、もしあなたが私のために会長に取り成して、引き継ぎ式を予定通り進めさせてくれるなら、私は絶対に秘密を守るわ。」

ゲームが終わり、高倉海鈴はスマートフォンを置いて、からかうような口調で言った。「そうですか、鈴木部長は謝罪に来たんですね。でも、誠意が全く感じられないんですけど。」

「あなたに謝る必要なんてないわ！会長にお会いしたら、きちんと丁寧に謝罪するわ。あなたが心配することじゃないでしょう！」

鈴木琴美は嘲笑うように彼女を見て、「あなたは美貌で男性を誘惑しているだけでしょう？最初は藤原社長を誘惑して結婚し、今度は嵐エンタメの発展性に目をつけて会長を誘惑する。でも会長は世間知らずの若い女に騙されるような人じゃないわ。ただ遊ばれているだけよ。」