皆は高倉海鈴が認めたと思い込み、夏目茜は得意げな表情を浮かべた。「私も皆さんの時間を無駄にしたくありません。謝罪して、新しいデザイン画を描き直してくれれば許してあげます!この件は無かったことにして、撮り直しましょう」
夏目茜の言葉は途中で飲み込まれた。彼女が反論しようとした瞬間、バックステージから怒りに満ちた声が響いた。「私は反対だ!」
皆が声のする方を見ると、銀灰色のスーツを着た男性が暗がりから現れた。夏目茜に買収された審査員が叱責しようとしたが、その顔を見た瞬間に固まってしまった。「陸田...陸田さん?」
男性は冷たい眼差しで皆を見渡し、最後に高倉海鈴に視線を向けると、その目に優しさが宿った。
その顔は出席者全員にとって見慣れたものだった。様々なファッション誌の表紙を飾り、ファッション界の王子と称される瑠璃会社の社長、陸田晋だ。
「陸田晋だわ!雑誌の表紙より実物のほうがかっこいいわ!」
「陸田晋さんも以前はデザイナーだったから、盗作は許せないはずよ!それに夏目さんはただデザイナーに謝罪を求めただけで、他に無理な要求もしていないのに、なぜ反対するの?」
審査員は陸田晋を怒らせることを恐れ、へつらうような笑みを浮かべた。「陸田さん、ご存じないかもしれませんが、このデザイナーは夏目さんの作品を盗作したんです。夏目さんはただ謝罪を求めているだけなのに、今日はどうして...」
「なぜ謝罪する必要がある?」陸田晋は容赦なく相手の言葉を遮った。目の前の審査員など眼中にない様子で、冷たい視線を夏目茜に向けた。
「このドレスは君がデザインしたと?」陸田晋は問い詰めた。
夏目茜は陸田晋の深い瞳に見つめられ、恥ずかしさで顔を赤らめた。「は...はい」
陸田晋が褒めてくれると思っていたが、次の瞬間、彼は嘲笑うように言った。「瑠璃の首席デザイナー山内正が半年前にデザインした図面が、どうして夏目さんの作品になるんですか?夏目さんも少し考えてみてください。あなたの立場でこのデザイン画に相応しいとでも?」
高倉海鈴は腕を組んでくつろいだ様子で、ゆっくりと唇の端を上げた。自分の潔白を証明する証拠はなかったが、それがどうした。陸田晋が出てきた以上、誰が彼の言葉を疑うだろうか?