第38章 狂人と海を渡れない蝶_2

「でも鍵を失くしてしまって、入れないんです」魏冬蟲は呟くように茫然と言った。

「俺が何とかするよ」陳二狗は歯を食いしばって言った。表情は相変わらず穏やかだった。彼女が星や月を取ってくれと言えば無理だが、こんな小さなことなら陳二狗には何でもないことだった。

隅に縮こまっていた魏冬蟲は、数ヶ月前とは少し違って見える男を見つめ、再び俯いた。

将軍大通りに入ると、陳二狗は突然陰鬱な声で言った。「冬蟲、前の席に来てくれないか。できれば安全ベルトもしてくれ。ちょっとトラブルがありそうだ」

魏冬蟲は顔を上げ、突然の驚きに満ちた表情を浮かべた。陳二狗と同じように日に焼けて少し黒くなった顔には困惑の色が浮かんでいた。

陳二狗は理由を説明せず、振り向いて微笑んだ。

すると魏冬蟲は、あまり格好良くない姿勢で助手席に這い上がり、安全ベルトを締めた。これが彼女と魏夏草との最大の違いかもしれなかった。

魏冬蟲が座るや否や、陳二狗は目を細めてバックミラーに映る2台の車を見た。1台はランドクルーザー、もう1台はレクサスES350だった。前者は鐘山ゴルフの入り口から南京駅まで尾行し、一時姿を消した後、将軍大通りで再び現れた。後者は南京駅からずっとここまで付いてきていた。前回上海浦東國際空港へ行った時も尾行されたが、今回ほど露骨ではなかった。ついに我慢できずに獲物に牙を剥いて噛みつこうとしているのか？陳二狗はハンドルに指を這わせながら、不穏な空気を感じ取った魏冬蟲を見て、優しく言った。「怖がらなくていい。天が落ちてきても、俺が先に受け止めるから」

急加速すると、アウディA6は電光石火のごとく飛び出し、一気に20メートルほどの距離を100メートル以上に引き離した。

魏冬蟲は顔を蒼白にしながらも、目には光が宿っていた。