第88章 面談
「会いたい？」
この返事に張元清は不意を突かれた。彼は止殺宮主が電話で連絡してくると思っていた。
電話でさえ警戒していたのに、まして直接会うなんて。
止殺宮の人々は皆過激で.......宮主は狂気の......聖者境頂點......思考が巡る中、張元清は思わず口走った：
「いいえ、それは規則違反です！」
「宮主とは会いたくありません。距離を保つことが、お互いのためです。」
狂気とは何か？それは一秒前まで「お兄ちゃん大好き」と言っていたかと思えば、次の瞬間には包丁を取り出してお兄ちゃんの首を切り落とし、一緒に大海原を漂うような存在だ。
張元清は社交が得意だと自負していたが、病的な執着や狂気には対処できず、本能的にそういう人々との接触を避けていた。
情狂の大聖は少し躊躇してから言った：
「宮主が言うには、夏侯家の秘密を知りたければ、直接会って話すしかないそうです。電話では話せないし、メッセージでも伝えられない。それに、あなた一人で来なければなりません。」
夏侯家に関する秘密で、しかも直接会って話さなければならないということは、相当重要な内容に違いない！張元清は黙って考え込んだ。
元始天尊が沈黙しているのを見て、情狂の大聖は付け加えた：
「我らが宮主はあなたの活躍を聞いて、とても感心しているそうです。」
狂気の人に気に入られるのは良いことじゃない......張元清は心の中で呟いた。
しばらく考えた後、彼は言った：「分かりました。いつ、どこで？」
情狂の大聖はほっとした様子で、すぐに答えた：「宮主は康陽區治安署の向かいにあるカフェを指定しました。」
これは善意のシグナルを送っているんだ！張元清は言った：「問題ありません。」
今は夏侯家に対抗する切り札が必要だった。この機会を逃すのは惜しすぎる。
止殺宮主を狂気だと内心思っていたものの、張元清は現時点では止殺宮は敵ではなく味方だと考えていた。王遷の件でも、彼は止殺宮に恩がある。
........
午前四時半、通りは広々として寒々しく、アヒルの羽毛のような黄色い街灯の光が、道路に沿って遠くまで続いていた。
康陽區治安署に近づくと、張元清は携帯を取り出し、画面を鏡代わりにして街灯の下で自分の容貌を確認した。
平凡な顔立ち、少し堅苦しい印象。
彼は王泰に變裝していた。
やっぱり王泰の姿の方が安心できる。俺の容姿は美しすぎて、目立ちすぎる.......張元清は携帯をしまい、治安署に向かって歩き出した。
カツカツという足音が空っぽの通りに響き、三分後、彼は遠くに治安署の向かいのカフェを見つけた。店の扉は開いており、柔らかな明かりが漏れていた。
張元清は店の入り口で躊躇した後、意を決してカフェに入った。
店内は空っぽで、誰もいなかった。
人はどこだ？まだ来ていないのか？張元清は周りを見回し、適当な席を選んで座った。
彼が座ったばかりのとき、近くから銀の鈴のような軽い笑い声が聞こえてきた：
「王遷はあなたがかなりのイケメンだと言っていたけど、私が見るとごく普通ね。彼は私を騙したわ、帰ったら吊るし上げてお仕置きしないと。」
張元清の背筋が一瞬こわばり、そしてゆっくりと緩んだ。横を向いて見る。
二つのテーブルを隔てた場所に、いつの間にか真っ赤な美しい姿が座っていた。彼女は漢代の華麗な宮廷衣装を着ており、深紅を基調とし、胸元や裾、広い袖には金糸で雲紋や龍紋が刺繍されていた。
赤い裾は床まで届き、脛のところで切れ込みが入っていた。彼女は椅子の背もたれに寄りかかってくつろぎ、足を組んでいた。靴を履かず、雪のように白い素足の繊細で美しい足首には金のアンクレットが付けられていた。
彼女は銀のマスクを着けており、生き生きとした美しい瞳がマスクの下から張元清を観察していた。
妖艶で、奔放で、高貴で、端正で......一目見ただけで、張元清は彼女から多くの気質を感じ取った。
この脚なかなかいいな！張元清はちらりと見たが、それ以上は見ないようにし、探るように尋ねた：
「宮主？」
マスクの下の美しい瞳が少し曲がり、それが返事のようだった。
「あなたのことは聞いています。止殺宮への助力に感謝します。道義に反せず、私の力の及ぶ範囲で、あなたの一つの願いを叶えましょう。」彼女は頬杖をつき、うっとりと笑った。
三つはダメかな.....張元清は落ち着いて頷いた：「ありがとうございます！情狂の大聖から聞いたのですが、宮主はこの二日間ダンジョンに行っていたので、夏侯家に対処できなかったとか？」
赤い衣装の宮主は軽く頷いた：「私はすでに主宰境に昇格しました。」
くそっ、主宰者？張元清は急いで善意を示し、言った：「『宮主様、千秋万代、江湖を統一せよ』と叫んだ方がよろしいでしょうか？」
赤い衣装の彼女はクスクスと可愛らしく笑った：「私はむしろあなたの皮を剥いで、本当の顔を見てみたいわ。」
變裝がバレたのか？皮を剥ぐだなんて、やっぱり狂気の......。
普段なら彼は「光栄です」と言うところだった。
しかし今は言えなかった。この女性が本当にやりかねないと思ったからだ。
張元清は真面目な表情で言った：「夏侯天元はもう終わりですが、夏侯辛と夏侯池はまだいます。私に何かできることはありますか？」
会話は一つの芸術だ。
止殺宮主は数秒考え込んでから、ゆっくりと言った：「あなたは謝靈熙というあの子と親しいようですね。私の身分についても知っているでしょう。」
張元清は頷いた。
止殺宮主は口角を上げた：「ふん、やはり彼女は部外者に私の身の上を話したのね。裸にして吊るし上げてお仕置きしないと。」
あれ.....謝靈熙を危険な目に遭わせてしまったかも？張元清は驚いた。話題がこんな方向に向かうとは全く予想していなかった。
彼はこの宮主の思考の流れについていけなくなっていた。
止殺宮主は銀の鈴のような心地よい声で続けた：
「二十一年前、『樂師』三家の一つである楚家が『兵主教』の襲撃を受け、中核メンバーが全滅し、一般の族人だけが逃げ出すことができました。私はその時まだ幼く、霊境歩行者になっていませんでしたが、族人の保護のもと、運良く生き延びました。」
「楚家が当時全滅した理由は複雑で、詳しくは話しません。私は族人に連れられて松海に定住し、成人後、キャラクターカードを獲得して霊境歩行者となりました。」
「私は密かに楚家全滅の真相を調査し始め、長年の努力の末、ついに何かを突き止めました。当時の事件の背後で、ある勢力が全てを操っていたことが分かったのです。」
「どんな勢力ですか？」張元清は好奇心から尋ねた。
「暗夜のバラという組織を聞いたことがありますか。」
暗夜のバラ？！張元清の心が震えた：「聞いたことがあります。」
銀色の仮面の下の美しい瞳に、一瞬の驚きが走り、すぐに笑みを浮かべた：
「あなたは新人にしては知りすぎているわね。」
天才は特別なのだ！張元清は心の中で自分を褒めたが、軽々しく応じる勇気はなかった。もし彼女が「私は天才が好きだから、あなたの顔を剥ぎ取ることにしたわ！」なんて言い出したら。
止殺宮主は笑みを消し、レジを見つめながら静かな声で言った：
「暗夜のバラは隠密組織で、その存在を知る者はごくわずかです。しかし私の調査によると、各大霊境名家や官方組織に深く浸透していることが分かりました。官方の高位にある者の多くが、密かに『暗夜のバラ』のメンバーなのです。」
「その中には夏侯池の一派も含まれています。私が調べられたのは夏侯池までで、夏侯家の族老會と暗夜のバラとの繋がりについては分かりません。」
ここまで聞いて、張元清の頭の中で閃きが走り、ついに因果関係が繋がり、事の全容が見えてきた。
「あなたが夏侯天問を殺しかけたのは、暗夜のバラを調査するためで、夏侯池が遠路はるばる松海まで来たのは、表向きは孫の仇討ちですが、実際はあなたを口封じするためだったんですね？」
なるほど、だから夏侯家は止殺宮の事件でこれほど強圧的な態度を取ったのか。
止殺宮主は「うん」と頷き、「なかなか賢いじゃない」と言った。
「では、なぜこの件を五行同盟に報告しないんですか？」
「私は官方を信用していません。」彼女は首を振って：
「あなたが信頼する相手が暗夜のバラの人間でないとどうして分かるの？松海の五人の長老に直接会えない限り。でも私には彼らに接触する術がありません。夏侯池は取るに足りませんが、暗夜のバラが介入して口封じに来る可能性も警戒しなければなりません。」
張元清は数秒考え込んで：「今、この件を私に話したということは、私を通じて上に報告してほしいということですか？」
止殺宮主は笑って：
「あなたは新人で素性がクリーンだから、この情報を伝えたのよ。その情報を得た後にどうするかは、あなたの自由です。私はあなたを通じて夏侯家を潰す必要はありません。今の夏侯池なら、私は指一本で滅ぼせますから。」
張元清は探るように尋ねた：「傅青陽のことはご存知ですか。」
「詳しくは知りません。」銀色の仮面の下の瞳が彼を見つめた：「この情報を彼に伝えるつもり？」
彼女は数秒考えてから、言った：「傅家の半数は海外にいて、傅青陽も海外で育ちました。」
彼女は傅青陽を信用しているようだ......張元清は頷き、そして考えた：止殺宮主も暗夜のバラを調査していて、暗夜のバラと黒無常は接触しようとしている。
もしこの宮主を情報提供者として味方につけることができれば、黒無常を探し出し、名簿を手に入れる計画がよりスムーズに進むだろう。
十数秒後、彼は言った：
「暗夜のバラについての情報を持っているんですが、興味ありませんか？」
これを聞いて、止殺宮主は突然姿勢を正し、少し驚いた様子で張元清を見つめた：
「どんな情報？」
「先日、黒無常の部下の掃討作戦に参加したんです。えっと、黒無常事件はご存知ですよね......」
宮主が頷くのを見て、彼は続けた：「その呪術師の記憶から、黒無常が松海に潜伏している理由が、暗夜のバラの首領を待っているためだと分かりました。」
この言葉を言い終えると、彼は止殺宮主の呼吸が一瞬乱れたのを感じ取った。
「暗夜のバラの首領が松海に来る？」彼女の声からは感情が読み取れなかった。
「はい。」張元清は勢いに乗って：「私たちで協力できるはずです。」
止殺宮主は深く息を吸い、冷静な口調に戻って：「いいでしょう。私は霊能会の呪術師について調査します。何か分かったら連絡します。もしあなたが暗夜のバラの手がかりを見つけたら、王遷に連絡してください。」
「分かりました。」張元清は笑顔を見せた。
しばらくして、止殺宮主は沈黙を破った：「他に用がなければ、今日はここまでにしましょう。」
張元清は立ち上がって別れを告げた。
彼はカフェを出て、数歩進んでから、思わず振り返って見た。
カフェのドアは固く閉ざされ、床から天井までの窓の向こうは真っ暗で、明らかに営業していない様子だった。
先ほどの出来事は、まるで幻のようだった。
こんな状況は、霊異小説なら間違いなく幽霊に出会ったということになるな........張元清は呟いた。
まあ、この宮主は少し変わった性格だけど、噂に聞くほど病的で狂気じゃなかった。うん、これが的外れでありますように。
彼は歩き続けながら、先ほどの会話を細かく振り返った。
なるほど、夏侯池の一派が密かに暗夜のバラと結託していたのか。これで夏侯父子を追い詰めることができる。それに、彼らは必ず暗夜のバラについての情報、組織のメンバーなどを知っているはずだ。
黒無常は松海に隠れて臆病者のように振る舞い、見つけるのが難しいが、暗夜のバラという線から探れば、突破口が見つかるかもしれない。
この情報を傅青陽に報告しなければ。
張元清は彼をかなり信頼していた。一つには、横行無忌の事件で、彼はすでに暗夜のバラの存在を知っていた。もし傅青陽が暗夜のバラの人間なら、夏侯天元の事件で彼を助けるはずがない。
暗夜のバラのことを知っている部下を殺そうとしたはずだ。
もう一つは、彼が接触できる最高位の指導者は、傅青陽というヒャクブチョウだけで、選択の余地がなかった。
ここまで考えて、張元清は周囲を見回し、人気のないことを確認すると、静かに携帯を取り出し、傅青陽に電話をかけた。
......
PS：「宅菜さん」の二つの白銀同盟、「捞面姐姐」「灯雪叶」「琴箫铗」の盟主に感謝します。皆様のご健康と発展を祈ります。