北風が刃のように吹きすさび、雪が舞い上がる。
冬の厳しさは牢獄の如く、水は瞬く間に氷と化す。
辺り一面の銀世界の中、青々とした竹林だけが瑞々しく茂り、翡翠のような葉はきらきらと輝き、その上に乗った水滴は真珠のように光を放っている。
夢幻のような白い霧が漂い、仙境を思わせる。
竹林の中、トカゲのような生き物が、背中の鱗を妖しく光らせながら、草むらをササッと素早く這っていく。
シュッ!
その瞬間、キーンと冷気が迸り、トカゲを捉えた。
辺りの温度が急激に下がり、トカゲはあっという間に凍りつき、生き生きとした氷の彫刻となった。
「やっと捕まえたぞ、この食いしん坊め。」
竹林がサワサワと揺れ、中から一人の少年が現れた。
足取りは軽やかで、松のように背筋が伸び、顔立ちは整い、その双眸は澄み切った深い潭のようだ。厚手の綿入れを着ており、安堵の表情を浮かべている。
方夕は氷像の前に佇み、凍りついたトカゲを手に取って重さを確かめると、顔をしかめ、ぶつぶつと文句を言い始めた。「なんだよ、本当に割に合わないじゃないか!」。
「石竜子とかいう妖虫にもならない下っ端のくせに、捕まえるのに三日もかけちまった。おまけに『寒氷符』まで使う羽目になるなんて。この符術、一階下品とはいえ、下品霊石の半分はするんだぞ!」
方夕の顔には、不満がありありと見て取れる。
いわゆる「霊晶」とは霊石の欠片であり、通常、下品霊石1つと交換するには霊晶が10枚必要となる。
これでは完全に赤字だ。
だが、そうするしかなかった。
方夕はこの竹林の霊農であり、来年の収穫はこの竹の生育にかかっている。妖虫に食い荒らされるわけにはいかないのだ。
ヒュー、ヒュー!
冷たい風が吹き抜け、方夕はぶるりと身を震わせた。
空を見上げると、雪がまた降り始めている。綿入れをきつく締め、心の中でため息をついた。「いつの間にか、もう一年も経ったのか…転移してなかったら、修行者だって寒いってこと、信じられなかっただろうな…」
そう、方夕は転移者なのだ。
彼の転移は、何の変哲もないものだった。前世では、努力して大学に入ったものの、その後は堕落し、学業を疎かにし、良い仕事にも就けず、両親に言われるがまま公務員試験の勉強を始めたが、数的処理の問題に四苦八苦していた。
追い詰められても、数学が分からないものは分からないで、どう練習しても無駄なことが証明された。
残念ながら、公務員試験の結果が出る前に、方夕は試験会場で転移してしまったのだ。
目を開けると、そこは修行者が存在する世界。そして、同じく方夕という名の少年に憑依していた。
この方夕は練気期三段修為の持ち主で、身寄りもなく、南荒修行界の越國青竹山坊市に所属する霊農だった。
最初、方夕は転生を信じられなかった。しかし、数刻後、体の記憶に従い、震えながらも初めての小術を発動させた時、彼はついに仙人的、超自然的な力を手に入れたことを確信した!
もちろん、修行者はまだ仙人ではない。未だ凡人の域を出ず、暑さ寒さ、そして生老病死からは逃れられない。
だが、方夕は記憶の中で知っていた。修行者の功力が上がり、境界が高まれば、寿命を延ばし、病を寄せ付けず、真の不老不死に近づくことができるのだと。
その良い例が、青竹山坊市を支配する司徒家だ。一族には「築基期高段階修行者」が複数いるという!
築基期修行者ともなれば、凡人の想像をはるかに超える。少なくとも、壽命は倍に延び、二百年以上生きることも容易いのだ!
二百年!それは前世で、ほとんどの王朝の栄枯盛衰を見届けることができる時間だ。
だから、方夕は元の持ち主の全てを受け継ぎ、坊市の霊農として、修行の道を歩み始めた。
今。
口では文句を言いながらも、方夕は石竜子を丁寧にしまった。なんだかんだ言っても、霊晶一枚にはなるのだ。
元の持ち主の貯蓄を受け継いだが、今の全財産は数十霊晶しかない。
彼が管理する六分地の「翠玉碧竹林」は、毎年竹米が成熟し、税として半分を納めると、残りは百斤、つまり1石ほど。価値にして30枚の霊晶にしかならない…。
一年間、汗水垂らして働いて、収入は下品霊石3つ…。
「ああ、修行は難しく、生活はさらに難しい!」
方夕はため息をつき、体についた雪を払い、竹林の雑草を取り始めた。
これらの雑草も霊気を吸って育ち、非常に硬い。少しでも油断すると、翠玉竹の養分を奪い、収穫に影響してしまう。
だから、この霊農の仕事をするには、春風化雨術や庚金草薙剣などの小術を習得していなければならない。
方夕は元の持ち主の記憶を受け継いだが、農作業は依然として大変で、生活も苦しかった。
練気期三段は練気期の中でも初期の段階であり、青竹山坊市には、練気期四段以上の中期修行者も少なくない。時には練気期七段以上の高段階修行者も現れる。そして、修行界は弱肉強食の世界であり、力ずくで奪い取ることも日常茶飯事だ。
高階の魔修の領域の者に至っては、強力な法術や法寶を錬成するために、周囲百里を血祭りにするという惨劇も、稀ではあるが、書物に明確に記されている。
時々、方夕は修行の道を諦め、凡人の国に戻って裕福な暮らしをし、多くの妻妾を娶り、残りの人生を過ごすのも悪くないとさえ思う。
しかし、すぐにその考えは捨て去られた。
結局のところ、享楽という点では、古代の皇帝でさえ、現代の一般人には及ばないだろう。
現代人に勝るものがあるとすれば、それは超常の力と不老不死の誘惑だけだ!
そのため、生活は苦しくとも、方夕は歯を食いしばって耐えてきた。
…
空は墨のように重苦しい。
方夕は空を見上げ、時間を確認し、住居へと戻り始めた。
青竹山坊市には山全体を守る護山大陣があるが、普段は霊石を節約するため、坊市の主要な通りと周辺の商店しか守られていない。山全体や霊田區まで覆うことは期待できない。
そのため、この地域は夜になると決して安全とは言えない。
司徒家の執法隊がパトロールしているものの、劫修行者による強盗事件は時々発生しており、方夕は自分の命を危険に晒すつもりはなかった。
霊農たちの住宅区は山頂の坊市に近く、巡回隊もよく通るため、比較的安全だ。
方夕は、自分たち霊農が貧乏で、劫修行者にも狙われないのだろうと、ひねくれた考えを持っていた。
山道をしばらく歩くと、低いバラック密集地が見えてきた。各家は垣根で囲まれ、鶏や犬の鳴き声が聞こえてくる。
方夕はそれを見て、顔に笑みを浮かべた。
数歩進むと、老農のような修行者が通りかかり、笑顔で声をかけてきた。「方さん、今夜も良いところへ繰り出すかい?」
顔はしわくちゃで、笑うと黄色い歯が二本覗く。気配は方夕よりも弱く、練気期二段程度だ。
老農は方夕の隣人、麦さんだ。
方夕は相手の素性を知らないが、毎日顔を合わせているうちに、多少の付き合いができていた。
相手の表情を見て、方夕はすぐにどこへ行くのか察した。
一見、木の板を適当に組み合わせただけのバラック密集地の中にも、坤修がいる。彼女たちはあまり畑仕事をせず、比較的裕福な生活を送っており、独自の生計手段を持っているのだ。
麦さんは方夕よりも長く畑仕事をしているが、生活は非常に苦しく、霊晶を借りに来たこともある。彼の貯蓄がどこへ消えたかは、想像に難くない。
方夕は首を振って断った。「麦さん、俺は夜も修練しなきゃいけないんで…」
実のところ、この体に慣れてすぐに、方夕は坊市にある「酔仙樓」へ行き、全財産の半分近くを費やし、一晩中楽しんで、壁を伝って帰ってきたことがある…。
媚術を専門とする小妖精たちは、確かに手強い。
それ以来、こちらの世界の[方夕]は、全ての精力を畑仕事に注いでいる。仕方ない、金欠なのだ…。
「金を貯めなきゃ、お姉さんとお茶もできない。古くなったお茶は飲みたくないし…」
方夕は自分の家に戻り、扉を開けた。
彼の部屋は広く、居間、寝室、修練室などに区切られている…。坤修の中には、垣根の中に霊菜を植えたり、霊禽を飼ったりして、土地を最大限に活用している者だ。
方夕は台所に行き、雑穀の混ざった霊米を取り出し、粥を作った。
霊米はもちろん「碧玉竹米」であり、一粒一粒が翡翠のように美しく、清らかな香りを放っている。凡人の精米や雑穀と混ぜても美味しく、甘みもある。
特に食べ終わった後は、お腹の中に温かさとともに、かすかな霊気が湧き上がってきた。
この好機を逃さず、方夕はすぐに修練室に向かい、功法の修練に没頭した。
半刻後、方夕は目を開け、苦笑した。「この『長春訣』は本当に難しい。一年間も修行したのに、元の持ち主の修為をようやく制御できるようになった程度だ。練気期三段の頂点も見えないし、ましてや練気期中期の壁を突破するなんて…はぁ、難しい…」
彼はため息をつきながら、耳を澄まして周囲の音を聞き、符術を取り出して修練室の木の壁に貼り付けた。
これは一階下品の「護身符」であり、ある程度の防御力があり、最も重要なのは、音や霊気の波動を遮断できることだ!
築基期の神識は防げないが、もし神識スキャンを受ければ、すぐに爆発して修行者に警告を発する。
これら全てを終えた後、方夕は表情を落ち着かせ、指を鳴らした。
パチン!
次の瞬間、彼は別の場所にいた。
室内は華やかで暖かく。紫金香爐では、上質な安神香が焚かれている。
紫檀で作られたリクライニングチェアは心地よく、方夕はだらりと身を預けた。
そして、彼が指を動かすと、修行者が作ったエアコンが作動し、室内は常に快適な温度と湿度に保たれる。
十分に寛いだ後、方夕は破れた綿入れを投げ捨て、絹の華服に着替えた。すると、少年はさらに凛々しく、颯爽とした雰囲気を纏った。
部屋の扉を開けると、眩しい陽光が差し込み、そこは広大な豪邸の一室だった。
まるで、別の世界に来たようだ。
実際、その通りだった!
方夕は口元に笑みを浮かべた。
人はね、追い詰められれば何でもできる。転移だって!!!!!!