悪趣味

「!!!」

は…花!?

うっそだろ!これは一体どういう風の吹き回しだ?呪いでもかけられたんじゃないのか?

よくもボスを花に例えたな!

ボスの顔は確かに人間離れした美しさで、男の自分が見てもドキッとするが、ボスをよく知る者ほど、その残酷な本性を知っている。

井上和馬は恐る恐るボスの様子を伺ったが、その黒い瞳からは何も読み取れなかった。

ボスは…怒っているのか、いないのか?

その時、黒田悦男は目の前にいる顔も言葉も醜い女を見て、ついに我慢の限界に達した。「…いいだろう!君がそこまで言うなら、もう何も言うまい!後で後悔しても知らないぞ!由衣、私はもう十分尽くした!」

雨宮由衣は黒田悦男の背中を見送り、少しぼうっとしていた。

前世の今頃は、庄司輝弥の激しい怒りが待っていたはずなのに、今回は違った。黒田悦男は去り、そして庄司輝弥は…

どこかで感じていたあの男の気配は、いつの間にか消えていた。

この危機は、乗り越えられたのだろうか?

庄司輝弥の性格はつかみどころがなく、雨宮由衣は油断できなかった。少し落ち着きを取り戻してから、屋敷の中へと戻った。

リビングに足を踏み入れた瞬間、あの見覚えのある気配が、彼女の全身を包み込んだ。

「来い」

ソファに座る男の、底知れぬ視線が網のように彼女を捕らえた。

雨宮由衣はその場に立ち尽くした。まるで足が根付いてしまったかのようだった。

転生したとはいえ、この男に対する骨身に染み付いた恐怖心は消えなかった。

しかし、運命を変えるためには、この恐怖を克服しなければならない。

雨宮由衣は手のひらを強く握りしめ、意識を保ちながら、ゆっくりと男へと歩み寄った。

彼の前に着くと、次の瞬間、男の膝の上に座らされ、唇に鋭い痛みが走った――

冷たい薄い唇が強く押し付けられ、彼女の唇を隅々まで舐め尽くすように、執拗に味わった…

雨宮由衣は身動き一つせず、抵抗せず、彼を怒らせないようにと自分に言い聞かせた。

ただ、彼女は考えずにはいられなかった。今日のリップの色は前回よりさらに派手で、まるで毒にでも侵されたような色なのに、彼は嫌がらないのだろうか?平然とキスをするなんて。

18歳で庄司輝弥と出会ってから、2年間ずっと、彼女はあらゆる方法で自分の素顔を隠そうとしてきた。いつか彼をうんざりさせられると思っていたのだ。

こんなことになるなら、あんなに必死に変装する必要はなかったのに。

そこまで考えて、雨宮由衣ははっと我に返った。

庄司輝弥の腕の中で、上の空になっていたなんて?

我に返ると、さらに驚いた。首に何か重みを感じた。庄司輝弥が彼女を抱き枕のように抱きしめ、いつの間にか頭を彼女の肩に乗せ、熱い吐息を首筋に吹きかけていた。呼吸は穏やかで、深い。

眠っている…

まさか!?

雨宮由衣は声を出さずに待った。30分経っても庄司輝弥が動く気配がないので、恐る恐る声をかけてみた。「輝弥…?」

男は依然として反応を示さない。

本当に眠っている!

少し離れた場所で、心配そうに入り口で待機していた井上和馬は、この光景を見て目を丸くした。まるで信じられないものを見たかのようだった。

雨宮由衣も驚いていた。

彼女はよく覚えている。庄司輝弥には深刻な睡眠障害があり、常人とは異なる薬物耐性を持っていて、どんな薬も効かない。眠りにつくには、毎回専門の心理カウンセラーによる催眠が必要だった。

さらに厄介なことに、この男は精神力が異常に強く、心も頑丈で、催眠にかかりにくい。機嫌が悪い時は、催眠は全く効果がなかった。

庄司家はあらゆる名医を呼んだが、誰も解決策を見つけられなかった。