第53章 賢い妻を娶る

土曜日の午前。

清風学園の北門にある人気のない路地の入り口に、古びた壁と荒れた舗装道路とは不釣り合いな高級ベントレーが静かに停まっていた。

黒い車体の外観は控えめに見えたが、内装は極めて贅沢で、本革シート、高価な最高級ベルベットの毛布、全自動温度調節システム、催眠術のような効果のある微かな香りが漂い、至る所が非常に快適に設えられていた。

男は体にぴったりとフィットした漆黒のスーツを着て、雪白のベルベットの毛布が敷かれた椅子に座っていた。その表情は相変わらず美しく冷淡で、長期の不眠による目の下の淡い影が、彼の全体的な雰囲気を不気味なものにし、人々を畏怖させていた。

この時、男は焦点の定まらない目で窓の外の虚空を見つめ、何を考えているのか分からなかった。

運転席では、井上和馬が重たい隈を両目の下に抱え、憂いに満ちた表情で、明らかに一晩中眠れていない様子だった。

彼は、主人が雨宮由衣を老夫人に会わせようとしているとは思いもよらなかった。この知らせを聞いて以来、彼は心配で仕方がなかった。

主人はあの女性の様子が老夫人を驚かせないか心配していないのだろうか？

まして、あの女性は面倒を起こしがちな性格だ。

老夫人はどんな身分の人か？主人が家族を継承する上で最大の助力者であり支持者なのだ。もし老夫人の屋敷で騒ぎを起こしたら、錦園での出来事よりもずっと深刻なことになる。

元々彼はまだ一縷の望みを抱いていた。主人はただ遊びで、手に入らないから手放さないだけだと思っていたのに、まさか主人が老夫人に会わせようとするとは。

諺にも賢い妻を娶れとある。主人がこのような愚かな女性と一緒になることに固執すれば、いずれ計り知れない代償を払うことになるだろう。

井上和馬は考えれば考えるほど不安になり、我慢できずに進言した。「ご主人様、お気に召さないかもしれませんが、命を懸けても一言申し上げねばなりません。よくお考えください。老夫人はあなた様の最も大切なご親族であり、庄司家で最も発言力のある方です。もし老夫人を傷つけたり、怒らせたりすれば、その結果は想像もつきません。

ただ錦園で私的に囲っているだけならまだしも、老夫人の前にお連れになるということは、その女性が将来、庄司家の当主夫人になる可能性があるということです。雨宮の性格では、実に……」