庄司夏が急用で来られなくなったため、最後の場面の練習ができず、みんなはそのまま解散することになった。
「庄司夏、すっかり怯えちゃって、逃げ出しちゃったわね!」
「ねぇ……庄司夏、本当に王子様の役を加瀬東に譲るつもりなのかしら?」
「きっとそうよ。誰かが身代わりになって、自ら代役を買って出てくれるなんて、断る理由なんてないでしょ!」
「雨宮由衣のようなブスにそんな手があったなんて意外ね。一体加瀬東に何を飲ませたのかしら?」
小講堂で、女子たちがこそこそと噂し合っていたが、加瀬東が鬼のような形相で睨みつけると、たちまち皆が青ざめて、急いで荷物をまとめて逃げ出した。
加瀬東は彼女たちを睨みつけた後、雨宮由衣の前に歩み寄った。それまでの険しい表情は一瞬にして硬く、戸惑ったものに変わった。「一緒に食事したくないなら、その…寮まで送るよ…」
雨宮由衣は眉間を摘まんで、「加瀬東、前にも言ったけど…」
加瀬東はすぐに彼女の言葉を遮った。「僕のルックスが足りないのは分かってる。でも、君のことを大切にするよ!顔だけで判断しないでよ!」
その言葉を聞いて、雨宮由衣は思わず口角を引きつらせた。そう言える立場じゃないのは彼の方じゃないの?
「昨日の夜、私のすっぴんを見たから、急に私のことが好きになったの?」雨宮由衣は単刀直入に尋ねた。
加瀬東は否定せず、頷いて「うん」と答えた。
雨宮由衣は眉を上げた。「つまり、私の顔だけが好きなの?」
加瀬東は唇を噛んで、「確かに君の顔が好きだよ。君は…本当に綺麗だ…でも、美しい女性を好きになるのは当然のことじゃないか。それが間違っているとは思わない!」
加瀬東の開き直りに、雨宮由衣は苦笑いを浮かべながら、「実は、私には彼氏がいるの」と言った。
「何だって?」その言葉を聞いて、加瀬東の表情が一変したが、しばらくして落ち着きを取り戻した。「そんな方法で僕を断らなくてもいいよ」
雨宮由衣は諦めたような表情で、「私がそんなに独身に見える?」
加瀬東は眉をひそめた。「そういう意味じゃない、ただ…」
彼が信じないのも無理はない。結局のところ、雨宮由衣はいつもあの恐ろしい顔で人前に出ているのだから、彼氏がいるはずがないと思われても仕方ない。
「君の彼氏は君の基準に合ってるの?」加瀬東は話題を変えて尋ねた。