第93章 私の彼氏はこんなにイケメン

雨宮由衣は井上和馬の言葉を聞いて、それ以上質問することはなかった。ただ、口の中でぶつぶつと呟いた。「あなたが間に合って来てくれて良かった。でなければ、私は他人の彼女になるところだったわ。さっき加瀬東が私と賭けをしようとして、もし私が嘘をついていて、私の彼氏が本当は来ないのなら、私は彼の彼女になるって約束しなきゃいけなかったの……」

庄司輝弥の目に冷たい光が広がる前に、少女が勝ち誇ったような口調で得意げに続けた。「だって、あなたが来てくれるって約束してくれたから、絶対来てくれると信じてたの。だから迷わず賭けに乗ったのよ！さっきの加瀬東の反応を見れば分かるでしょう。今回は完全に諦めたはずよ。だって私の彼氏はこんなにイケメンなんだもん！麻袋を被って来たとしても、彼なんて瞬殺できちゃうわ！」

庄司輝弥は少女のこの得意げな言葉を聞いて、目の中に凍りついていた冷たさが一瞬で溶けた。雨宮由衣のこのお世辞が効果的だったことは明らかだった。

傍らの井上和馬は、この話を聞いて涙が止まらなかった。

麻袋を被って来る？お嬢様、それを先に言ってくれていれば、今夜私たちはこんな苦労をしなくて済んだのに！

彼は理解した。彼らが何人集まって千の褒め言葉を言っても、この人の「イケメン」という一言には敵わないのだと。

レストランから学校までの道のりは短く、すぐに着いた。

雨宮由衣は男性の背中から飛び降りた。「着いたよ！」

男性は振り返り、目の前の少女を見つめると、表情が再び冷たくなった。

雨宮由衣は深く感じた。この人の気分は三月の空のように変わりやすい……

その時、雨宮由衣は知らなかったが、彼女と庄司輝弥から少し離れたベンチには、一人の人物が座っていた。

庄司夏は元々眠れなくて外に出て来ていたのだが、今、偶然に木々の隙間から、遠くの街灯の下で雨宮由衣が一人の男性と話をしているのを目にした。

その男性は彼に背を向けていて、ぼんやりとした後ろ姿しか見えなかったが、一目見ただけで庄司夏の表情は一変した——

庄司輝弥！

まさか？

庄司夏は疑いと驚きに満ちた表情で、さらに見続けた。すると雨宮由衣がつま先立ちになり、男性の頬に軽くキスをした。「おやすみ！」

そう言って立ち去りながら、振り返って男性に手を振った。