第112章 お世辞が効いた

「九様、この方は……」隣の人が探るように尋ねた。

庄司輝弥はプライバシーを探られるのが大嫌いだった。その人は聞いた直後に後悔したが、思いがけず、男は一言返した——

「彼女だ」

この言葉を聞いて、個室内の全員が驚いた。

彼女？

この言葉の重みは並大抵のものではない！

ただの女性の同伴者だと思っていたのに、まさか公認の関係だったとは？

林翔太は口角を引きつらせながら庄司輝弥を見やった。まさかこいつが突然雨宮由衣を呼びつけたのは、彼女に主権を宣言させるためか？

鈴木浩は額の冷や汗を拭いながら、急いで親しげに話しかけた。「いやぁ、九様が普段女性に近づかないわけですね。こんな美人の彼女がいらっしゃったとは！失礼ですが、お名前は？」

「はじめまして、雨宮と申します」雨宮由衣は簡単に挨拶をした。

雨宮……？

一同は頭の中で帝都の雨宮姓の名門を片っ端から思い出してみたが、結局どの雨宮家なのか分からなかった。

帝都で名の知れた雨宮家と言えば一族しかないが、その家柄では彼らの社交界には到底及ばないし、その上その家の令嬢はすでに黒田家と婚約しているはずだった。

皆は程よいところで引き下がり、これ以上詮索する勇気はなく、再び酒を飲みながら会話で場を盛り上げ始めた。

その後の展開は極めてスムーズで、鈴木浩が半年かけても成立できなかったプロジェクトが、今夜ついに庄司輝弥との協力合意に至った。

最後の乾杯の時、鈴木浩は涙目になり、雨宮由衣を見る目つきは、まるで救いの地蔵菩薩を見るかのようだった。

もう終わりだと思っていたのに、危機を乗り越えただけでなく、契約まで成立した。

古代の権臣たちが皇帝の後宮に女性を送り込もうとしたように、誰もが庄司輝弥の周りに女性を送り込もうとしており、彼も例外ではなかった。

しかし今日、庄司輝弥が後宮を一掃して一人だけを寵愛するような態度を目の当たりにし、もはや彼らには機会がないことは明らかだった。不用意に動けば、先ほどのように裏目に出る可能性すらあった。

だが、別の方法を探るのは不可能ではない……

帰り際、鈴木浩は非常に熱心に懐から金色のカードを取り出し、雨宮由衣に差し出しながら、満面の笑みで言った。「雨宮さん、初めてお会いしましたが、これは私からの些細な気持ちです。どうぞお納めください」