第84章 実の兄のように

そう思っていると、沢田夢子が憎々しげな目つきで彼女の方を見つめているのに気づいた。

雨宮由衣は、かすかに眉を上げ、無邪気な表情で悠々と口を開いた。「夢子、こんなことになるなんて知らなかったわ。私のことを責めたりしないわよね?」

沢田夢子は周りの不快な囁き声を聞きながら、発狂しそうなほど腹が立っていたが、必死に抑え込み、目の奥の暗い色を隠しながら、空笑いをして言った。「由衣、まさか...私がどうしてあなたを責めるの...あなたも意図的じゃなかったわよね...」

沢田夢子は歯を食いしばりながら言い終え、まだ立ち去っていない周囲の人々を見渡してから、急いで彼女に説明した。「実は麗子が私のことを誤解しているの。私が彼女の好きな人を奪うなんてことするはずないでしょう!

蘇我隼樹が私のことを好きで、ずっと追いかけてきたのは事実だけど、私は一度も応えたことはないわ。むしろ彼にはっきり断ったのよ。私が気付かないうちにキスされただけで、私から積極的にしたわけじゃないの。全く予想もしていなかったわ...

麗子に誤解されるのが怖くて、ずっと黙っていただけなのに、由衣があなたが...」

江川麗子が帰り、蘇我隼樹本人もいない今、真相を知る人がいないことをいいことに、沢田夢子は全てを綺麗さっぱり否定し、むしろ責任を雨宮由衣に押し付けた。

雨宮由衣はそれを暴露することもせず、何かを悟ったような表情で言った。「そうよね、あなたが好きなのは私の兄さんだもんね!」

沢田夢子はその言葉に驚き、すぐに真剣な表情で言った。「由衣、変なこと言わないで。私は靖臣兄のことをずっと実の兄のように思っていただけよ。好きというのも兄に対する好きな気持ちだけ!」

今や沢田家の星集エンタテインメントは急成長中で、将来は大スターになるはずの彼女には、条件の良い追っかけの男性が数え切れないほどいる。彼女は雨宮靖臣のような役立たずと関係を持ちたくなかった。

まだ彼を引き留めているのは、ただ利用価値があるからに過ぎない。

靖臣兄を実の兄のように思っているという一言に、雨宮由衣は吐き気を催すほど嫌悪感を覚えた。