第85章 いい思いをしておいて知らんぷり

沢田夢子は何気なく兄が賭け事好きだと言い出し、一見誠実な口調の中に明らかな優越感が滲んでいた。

その言葉を聞いた雨宮由衣は胸が騒ぎ、喉に血の味が込み上げてきた。

かつて沢田宏明は父の下で働く小物に過ぎなかったのに、あんなに誇り高かった兄が、今では沢田家の使用人として働くまでに落ちぶれてしまうなんて!

それなのに兄は、愛のために犠牲を払っているのだと思い込み、進んで沢田家のために命を削り、沢田家のために数多くのスター俳優を育て上げた。

庄司輝弥からの支援と、主演女優の江川麗子の存在、そして業界で「神を作る手」と呼ばれるイメージコンサルタントの兄のおかげで、沢田家の会社は着実に成長し、七年後には芸能界で雨宮家と肩を並べるまでになった。

そして兄は、沢田夢子と結婚するために若くして体を壊すまで働き、利用価値を使い果たされた後は沢田家に捨てられ、沢田家は噂を立てられないよう、芸能人に兄がセクハラをしたと誣告させ、彼の名誉を失墜させ、業界から追放され、絶望の末に自暴自棄になって……