第85章 いい思いをしておいて知らんぷり

沢田夢子は何気なく兄が賭け事好きだと言い出し、一見誠実な口調の中に明らかな優越感が滲んでいた。

その言葉を聞いた雨宮由衣は胸が騒ぎ、喉に血の味が込み上げてきた。

かつて沢田宏明は父の下で働く小物に過ぎなかったのに、あんなに誇り高かった兄が、今では沢田家の使用人として働くまでに落ちぶれてしまうなんて!

それなのに兄は、愛のために犠牲を払っているのだと思い込み、進んで沢田家のために命を削り、沢田家のために数多くのスター俳優を育て上げた。

庄司輝弥からの支援と、主演女優の江川麗子の存在、そして業界で「神を作る手」と呼ばれるイメージコンサルタントの兄のおかげで、沢田家の会社は着実に成長し、七年後には芸能界で雨宮家と肩を並べるまでになった。

そして兄は、沢田夢子と結婚するために若くして体を壊すまで働き、利用価値を使い果たされた後は沢田家に捨てられ、沢田家は噂を立てられないよう、芸能人に兄がセクハラをしたと誣告させ、彼の名誉を失墜させ、業界から追放され、絶望の末に自暴自棄になって……

今、江川麗子には沢田夢子の本性を見抜かせることができても、実の兄を目覚めさせることはできない。

兄は昔、粋で洒落た男で、多くの女性と付き合いながらも誰にも本気にならなかったのに、なぜか沢田夢子には完全に参ってしまい、彼女を心の中の宝石のように、掌の上の瞳のように大切にし、この妹以上に可愛がっていた。

今の兄との最悪な関係では、むやみに沢田夢子の悪口を言っても、信じてもらえないどころか、兄妹関係がさらに悪化するだけだ。

沢田夢子を一撃で倒し、兄に彼女と沢田家の本性を完全に理解させる証拠を見つけない限り、兄を取り戻すことはできない。

でも、構わない。ゆっくりやればいい。江川麗子はただの始まりに過ぎないのだから!

沢田夢子の施しのような態度を見て、雨宮由衣は驚いたふりをして言った。「兄は業界で神を作る手と呼ばれるトップイメージコンサルタントよ。帝星のライバルのユニバーサルエンターテインメントが引き抜きを試みても断ったのに、あなたの一言で星集に行くなんて!」

七年後には沢田家の星集エンタテインメントがユニバーサルを完全に圧倒し、雨宮家の帝星と並び立つことになるが、今の沢田家の会社はまだこの二大芸能界の巨人と比べものにならない。