第86話 私は神様じゃない

雨宮由衣は沢田夢子が逃げ出す後ろ姿を見つめながら、密かに口角を上げた。

今日の出来事で、沢田夢子がどんなに言い訳や弁明をしても、みんなの彼女に対する態度や印象は以前とは変わってしまうだろう。

江川麗子については、彼女が沢田夢子と決別さえすれば、後は好感度を上げる機会はいくらでもある。

寮に戻ると、雨宮由衣はすぐに携帯を手に取り、庄司輝弥の番号を開いた。

もう一度、賭けに出ることに決めた。

庄司輝弥にとって、欺きと逃避こそが最も恐ろしいことだ。それなら思い切って正直に打ち明けた方がいい。

その一方で、雨宮由衣の予想通り、沢田夢子は怒り狂っていた。

寮では江川麗子も北条琴美もいない。鏡に映る携帯で殴られて腫れ上がった顔を見つめながら、テーブルの上の物を全て床に叩きつけた。