第86話 私は神様じゃない

雨宮由衣は沢田夢子が逃げ出す後ろ姿を見つめながら、密かに口角を上げた。

今日の出来事で、沢田夢子がどんなに言い訳や弁明をしても、みんなの彼女に対する態度や印象は以前とは変わってしまうだろう。

江川麗子については、彼女が沢田夢子と決別さえすれば、後は好感度を上げる機会はいくらでもある。

寮に戻ると、雨宮由衣はすぐに携帯を手に取り、庄司輝弥の番号を開いた。

もう一度、賭けに出ることに決めた。

庄司輝弥にとって、欺きと逃避こそが最も恐ろしいことだ。それなら思い切って正直に打ち明けた方がいい。

その一方で、雨宮由衣の予想通り、沢田夢子は怒り狂っていた。

寮では江川麗子も北条琴美もいない。鏡に映る携帯で殴られて腫れ上がった顔を見つめながら、テーブルの上の物を全て床に叩きつけた。

くそっ、全て雨宮由衣のバカのせいだ!

あのバカ女が、よくも昔の雨宮靖臣への恋心なんて持ち出してきたわね。雨宮靖臣なんて今じゃ私の家の会社の犬に過ぎないのに、あいつに何の資格があるの?蛙の分際で白鳥を狙うなんて!

雨宮由衣、絶対に許さないわ!

沢田夢子は険しい表情で携帯を取り出し、冷笑しながら素早くメッセージを打ち始めた:[庄司様、由衣が最近良くない友達と付き合っているようです。不良と親密になっていて、その不良が由衣に良からぬ考えを持っているのは明らかなのに、由衣は気付いていないみたいで心配です。私には理解できません。庄司様はこんなにも素晴らしい方で、由衣にもこんなに良くしてくださっているのに、どうして由衣は庄司様を傷つけるようなことばかりするのでしょう!]

沢田夢子は数言で是非を完全に逆転させた。

表面上は雨宮由衣の身を案じているようで、実際には異性関係の乱れた女というレッテルを貼りつけたのだ。

告げ口の技術において、沢田夢子は右に出る者がいないほどだった。

このメッセージの他にも、二人が並んで歩く写真も数枚送り、ようやく少し気が収まった。

昨日はどこで失敗したのか分からないけど、雨宮由衣が何事もなかったかのように普通に学校に来たなんて。でも今回は証拠もバッチリ、もう失敗はないはず!

深夜、錦園にて。