第97章 イケメンに壁ドンされたい

雨宮由衣は今日庄司夏が練習に来ないと思っていたので、紫色の口紅を塗っていた。

庄司夏が近づいてくるのを見て、思わず尋ねた。「あの、色を変えた方がいいですか？」

前回、庄司夏がこの色を受け入れ難かったことを覚えていた。

庄司夏は彼女を見つめ、その眼差しには異様な熱が宿っていた。「いいえ、とても綺麗です」

雨宮由衣：「……！！！」

なに？綺麗？

誰か助けて！

雨宮由衣は驚いて急いでメイク直しをして気を落ち着かせようとしたが、手が震えてアイラインが何度も歪み、口紅も滲んでしまった。

庄司夏は雨宮由衣の顔を見つめ、その優しい表情に一瞬だけ亀裂が走ったが、すぐに消え去った。深く息を吸い込んで「練習を始めましょう！」と言った。

庄司夏自身が演じることを望んだので、女子たちは不満があっても仕方なく、一人一人不承不承と座って見守るしかなかった。

最後の場面「王子様との出会い」の練習が始まった。

白雪姫が毒に冒された後、一人の王子様が白馬に乗って森に迷い込み、不思議な導きによって小さな木の家の前にたどり着き、七人の小人たちが悲しそうに白雪姫を見守っているのを目にする。

庄司夏はゆっくりと雨宮由衣が横たわるテーブルの前に歩み寄り、少女の容姿を見つめ、琉璃のような瞳には深い愛情と哀しみが満ちていた。

見守る全員が感嘆の表情を浮かべた。

やばい！今日の王子様の演技がヤバすぎる！

雨宮由衣の参加によって、この舞台劇の難易度がMAXまで上がってしまったことは周知の事実だった。醜い人を世界一美しい白雪姫として演じなければならない状況を想像してみてほしい……

そして、最も恐ろしい場面がやってくる。王子様の真心の口づけによって白雪姫が目覚めるシーンだ。

庄司夏は手を伸ばし、少女の髪を優しく撫で、片手をテーブルについて支え、そしてゆっくりと身を屈めていった……

この姿勢を見た観客の女子たちは顔を赤らめ、心臓を高鳴らせ、全員が雨宮由衣を蹴飛ばして自分が代わりに横たわりたいと思った。

「うぎゃー！死ぬほど悔しい！私も王子様に壁ドンされたい！」

「王子様って本当に優しすぎる、こんな状況でも頑張って練習してくれるなんて！」

「でも、その優しさにつけ込んで厚かましく付け入る人がいるのよね！」