第157章 誰だって人渣を好きになったことがある

江川麗子は心の中で言い表せない悲しみを感じた。「ふん、私が意地悪で、婚約を解消したいだって？誰が公の場で婚約なんて存在しないと言い、私とは何の関係もないと言ったの？私はただあなたの望み通りにしただけよ。それが、悪いの？」

蘇我隼樹の瞳に冷たい光が走った。「江川麗子、そのことを持ち出すな！警告しておくが、お前は父親に婚約解消の話を撤回させ、我が蘇我家と一緒にあの案件で協力するべきだ。もちろん、どうしても婚約解消したいなら、それも構わない。その代わりに、案件は全て我が蘇我家に譲渡することだ。

そうすれば、この一件は無かったことにしてやってもいい。さもなければ、一生許さないぞ！私の忍耐力を試すのはもうやめろ。お前のわがままにも限度というものがある！」

蘇我隼樹のその態度は、まるで江川麗子のことを完全に理解したかのようだった。彼女の行動は全て自分を振り向かせるためだと思い込み、彼女がまだ自分を深く愛していると信じ、目の前の彼女がまだ昔のように、自分が怒れば何でも妥協する少女だと思っていた。

かつて何年も好きだった男を見つめ、その厚かましい言葉を一つ一つ聞きながら、ついに江川麗子の瞳から最後の輝きも消えた。「蘇我隼樹、本当に吐き気がする」

「お前！」蘇我隼樹は去っていく少女の背中を見つめ、怒りに顔を歪めた。

女子寮。

戻ってきた江川麗子の表情が優れないのを見て、雨宮由衣は「大丈夫？」と尋ねた。

江川麗子は苦笑いを浮かべた。「ただ、突然怖くなっただけ。もし私が早めにあの人の本性に気付いていなかったら、最後にどうなっていたんだろう？」

江川麗子の前世での結末を思い出し、雨宮由衣も背筋が寒くなった。

雨宮由衣は彼女の、かつての信念が崩れ去った気持ちをよく理解していた。ため息をつきながら「気を落とさないで。若い時にクズを好きになったことのない人なんていないわ！」

江川麗子は思わず笑みを浮かべた。「そう言えば、私たち似たような境遇よね。実は私ずっと気になってたんだけど、あなたは前にあんなに黒田悦男のことが好きだったのに、どうして急に悟ったの？」

雨宮由衣の瞳が暗く沈んだ。淡々と「偶然、ある真実を知っただけよ」と答えた。

……

その後の数日間、入札の結果はまだ正式に公表されていなかったため、極めて少数の人しか知らず、外部には結果が伝わっていなかった。