次の瞬間、近くから「ドン」という大きな音が響いた。
雨宮由衣の視界の端に、影流の隣の壁に亀裂が入っていくのがはっきりと見えた……
青年は拳を強く握りしめ、雨宮由衣の方向を睨みつけると、秋山若葉の心配そうな問いかけも無視して、踵を返して立ち去った。
ふむ、怒って帰ってしまったか……
雨宮由衣:「……」
実は先ほど、彼女はただヒマワリの種を食べたかっただけなのに。
それにしても、秋山若葉がこの地位まで上り詰めたのも納得だ。彼女と庄司輝弥が親密にしている場面を目の当たりにしても、平然とした態度を保ち、むしろ影流を慰めに行くなんて。
このように内面も外見も完璧で、文武両道で、しかも嫉妬深くない女性は、まさに完璧そのものだ。
彼女でさえ庄司輝弥の目に問題があるのではないかと思うほどだから、彼の腹心や部下たちが思うのも無理はない。
突然、唇に痛みを感じ、雨宮由衣の遠くへ飛んでいた思考は現実に引き戻された。「んっ……」
「何を考えていた?」彼女の気が散っているのに気付いて、男の声には明らかに不満が滲んでいた。
そんなこと聞く必要ある?あなたの影流が怒って壁を壊すほどだったのに見えなかった?
雨宮由衣は心の中でため息をつき、そっと呟いた。「あなたの女性を見る目に問題があるんじゃないかって……」
庄司輝弥は瞳を細め、静かに口を開いた。「どこに問題があるというのだ?」
雨宮由衣は少し躊躇った後、勇気を振り絞って言った。「なぜ内面も外見も完璧で、文武両道で、上品で家事もできる女性を選ばずに、朝廷を惑わし、聖意を欺く妖女を選んだの?」
庄司輝弥はその言葉を聞くと、じっと少女の顔を見つめた。
雨宮由衣がその視線に背筋が凍りそうになったとき、ようやく相手がゆっくりと四文字を返した。「色に溺れた」
雨宮由衣はその答えに思わず詰まった。「げほっ……それは明君のすることじゃないでしょう?」
「誰が明君だと言った?」
「……」雨宮由衣は即座に言葉を失った。
夕食時、庄司輝弥はいつものように寡黙だった。
一方、秋山若葉は何事もなかったかのように、老夫人と世間話や面白い話をして、時折老夫人を大笑いさせていた。
明らかに秋山若葉も老夫人の重要性をよく理解していた。