彼女は……何を聞いたの?
彼氏!
花を包装していた店員は雷に打たれたかのように、目を見開いたまま呆然と立ち尽くしていた。
少なくとも10秒が経過して、ようやく店員は相手の言葉の意味を理解した。
目の前のイケメンが……まさか男性が好きなの?
店員の乙女心は一瞬にして粉々に砕け散った……
何とか乙女心を取り戻し、自分の反応が露骨すぎたことに気付いた店員は慌てて謝罪した。「す、すみません……失礼しました……」
「気にしないで」雨宮由衣は気にせず微笑んだ。
店員は相手の笑顔を見て、さらに胸がときめいてしまい、やっと取り戻した心がまた砕けてしまった。
なんでイケメンは全員彼氏持ちなの……
花屋を出た後、雨宮由衣は井上和馬に電話をかけた。
「もしもし、井上執事、九様は今錦園にいますか、それとも会社ですか?」
「会社です。今会議中です」
「今夜は接待の予定はありますか?」
「スケジュールには入っていません」
「では、今から会いに行っても大丈夫でしょうか?」雨宮由衣は尋ねた。
「それは……雨宮様、少々お待ちください。九様に確認してまいります」雨宮由衣の言葉に、井上和馬は思わず驚いた。これまで雨宮由衣が自ら九様に会いに行くのは初めてだったからだ。
九様との関係を人に知られることを極端に嫌がり、公の場で九様と一緒に姿を見せることは一度もなかった。
すぐに井上和馬から電話がかかってきた。「雨宮様、どうぞいらしてください。受付で雨宮とお名前を仰っていただければ結構です」
「はい、ありがとうございます」
庄司グループ。
「いらっしゃいませ。お名前は?ご予約はございますか?」
来社者のほとんどがビジネスマンだったため、突然このような爽やかなイケメンが現れ、しかも大きな赤いバラの花束を抱えているのを見て、女性秘書は思わず目を輝かせた。
「雨宮です。庄司社長にお会いしたいのですが、井上補佐に予約を入れてあります」雨宮由衣は答えた。
「ああ、雨宮様でいらっしゃいましたか……」秘書はさっき井上和馬から注意を受けていたため、すぐに立ち上がって出迎えた。ただし、心の中で少し不思議に思った。井上補佐は確か「さん」と言っていたはずだが……
きっと忙しすぎて聞き間違えたのだろう!