第278章 好きなように人を選べ

しかし、雨宮由衣の表情には特別な感情は見られず、口角の微笑みは変わらなかった。

彼女は知っていた。この渡辺光が約束を守るような誠実な人間ではないことを。

でも……

それがどうした?

渡辺光は相手の表情が大きく変わるのを期待していたが、雨宮由衣の顔には怒りも悔しさも見られず、少し不思議に思った。しかし、表面上は相変わらずの誠実な偽善者を演じ続けた。「安心してください。契約書は既に用意してありますし、この物件は確実にあなたのために取っておきますよ!」

雨宮由衣は眉を少し上げ、口角の笑みを深めた。人の心を魅了するその瞳を少し上げ、渡辺光の偽善的な老人面を見過ごしながら、「渡辺部長、ご配慮ありがとうございます」と言った。

渡辺光は雨宮由衣の真意が掴めず戸惑ったが、長年の経験で自分の思惑を巧みに隠し、落ち着いた様子で微笑んで、もう一つの契約書を彼女に渡した。「あなたのポジションも手配しておきました。完全にあなたのために用意したものです。確認していただいて、問題なければ今日にでも契約できますよ」

「まあ、渡辺部長にはご面倒をおかけしましたね」。雨宮由衣は契約書を手に取って一瞥したが、最初のページを開いただけで、彼女の瞳は細くなった。

これはユニバーサルエンターテインメントの契約書ではなく、その子会社である輝星メディアのマネージャー契約書だった。

ユニバーサルエンターテインメントの多くの子会社の中で、輝星メディアは最も弱い存在で、唯一注目に値するのは周藤史良が担当する宮本旭だけで、まさに周藤史良の一人支配と言える状態だった。

渡辺光は諄々とした口調で話し始めた。「輝星は現在、かなり厳しい状況にあります。会社全体が一部のタレントだけで支えられている状態で、本当に頭が痛いんです。

雨宮白さん、あなたの今回の対応は本当に素晴らしかった。私も慎重に考えた末、この重要な任務をあなたに任せることを決めました。あなたの能力なら、必ず輝星を困難から導き出せると信じています」

雨宮由衣は白い磁器のティーカップを指で軽く叩きながら、心の中で冷笑を重ねていた。

さすが渡辺光、「左遷」をこんなにも美しく言い換えることができるとは。