第279章 私は彼が欲しい

等々力辰……

代表作『ビックリドラゴン1』。

等々力辰という名前に、雨宮由衣は少し印象があった。武侠ドラマが大好きだったので、当然名作武侠ドラマ『ビックリドラゴン1』を見ていた。

彼女の記憶が正しければ、この等々力辰は3年前にデビューし、『ビックリドラゴン1』で悪役のボスを演じ、一夜にして大ブレイクした。

このような高いスタートを切り、抜群のルックスを持っていたので、順風満帆のはずだったが、その後なぜか音沙汰がなくなった。

等々力辰の履歴書に記された芸歴は寂しいほど簡素で、『ビックリドラゴン1』というたった一つの誇れる作品以外、業界入りして3年、エキストラの役すら一度もなかった。

この履歴書で唯一輝いているのは、彼の写真だけだった。

写真の中、夕陽に染まるグラウンドで、少年は白いTシャツとジーンズを着て手すりに腰掛け、風に向かって眺めている。完璧な横顔、柔らかな髪が風に少し乱れ、澄み切った瞳には若々しい活力が満ちていた……

このルックスと雰囲気は、かつて「国民の初恋」と呼ばれただけのことはある……

ただ残念なことに、3年間音沙汰がなく、かつての「国民の初恋」は、世間から忘れ去られていた。

常識的に考えれば、このような過去の人気者が短期間で再びブレイクし、雨宮由衣に十分な初期資金を稼がせることは不可能なはずだった。

しかし、雨宮由衣は等々力辰の名前を見た瞬間、目に笑みが浮かんだ。

彼女は早くから、渡辺光が彼女を本社に置かないこと、良い場所にも行かせないことを予測していた。だから、渡辺光が彼女を将来性の乏しい、没落の兆しがある輝星メディアに「流す」ことを見越していた。

そして、雨宮由衣が最初から目をつけていたタレントが、等々力辰だったのだ!

彼女の記憶によれば、近いうちに等々力辰には再びブレイクするチャンスが訪れる。このチャンスをうまく掴めば、等々力辰を再び人気者にできるはずだった。

しかし前世では、等々力辰は何故かこのチャンスを逃してしまった。18歳で最も輝いていた時期に突然姿を消したように。

その後、等々力辰という名前は人々の視界から完全に消え去った。

でも今回は……彼女は等々力辰にこの絶好のチャンスを逃させるわけにはいかない。

必ず、等々力辰という名前を、再び芸能界中に轟かせてみせる!