会社のビルを出ると、雨宮由衣のクールでイケイケな態度は、まるで空気の抜けた風船のように萎んでしまった。
「ねぇ、お願い。ちょっと相談があるんだけど」由衣は探るように切り出した。
庄司輝弥は長い指で抱えている露に濡れた赤い花びらに触れながら、「何の相談?」と尋ねた。
由衣は弱々しく口を開いた。「相談というのは...私たち...また今度にしない?」
案の定、庄司輝弥の表情は一瞬にして冷たくなった。
由衣は慌てて説明を始めた。「ドタキャンするつもりじゃないの!本当は素敵なキャンドルディナーに誘おうと思ってたんだけど、さっき気づいたの。この花束を買うのに最後の貯金を使っちゃって...」
ああ、見栄を張るとろくなことにならないわね!
最後のお金でこの花束を買ったと聞いて、庄司輝弥の表情がやっと和らいだようだった。
由衣は何かを思いついたように目を輝かせ、続けて言った。「でも、あなたがおごってくれるなら、それでもいいよ。直接お金をくれるなら、もっといいんだけど!」
庄司輝弥:「帰るぞ」
由衣:「...」
もう、この感情知能の低さじゃ、一生女の子は落とせないわよ...
こういう時は、カードを投げつけて好きに使えって言うのが正解でしょ?
庄司輝弥は彼女の考えを察したのか、横目で彼女を見て、無表情で言った。「男は金があると悪くなる」
由衣は頭上に黒線が走った:「...」
自分でも役になりきれているつもりだったけど、ここにはもっと役になりきっている人がいるわ。
さすが悪魔様、趣味が幅広くて、私の男装も全然気にしていないみたい...
...
夜、帝都の高級マンション。
ここはユニバーサルエンターテインメントが所属タレントのために用意した社員寮だった。
橋本羽の複数の不動産情報が悪意を持って暴露され、どの家の前にも記者が群がっていたため、ここに引っ越してきたのだ。
今、部屋の明かりは全て消されており、広いリビングは静まり返っていて、テレビからの音だけが響いていた。
橋本羽はテレビの前のソファに座っており、液晶画面の青白い光の中、その端正な顔は病的な青白さを帯びていた。
テレビではエンタメニュースが放送されており、背景は彼が以前住んでいた豪邸だった。