雨宮由衣は一日中業務の把握に追われ、様々な引継ぎ手続きに忙しく、気がついた時には既に日が暮れていた。
時刻が遅くなっているのを見て、雨宮由衣は腕を伸ばして体をほぐし、書類を整理してから帰宅の準備をした。
現在やるべきことや学ぶべきことが多すぎて忙しいものの、この充実感を楽しんでいた。自分がまだ生きているという実感。
会社の玄関を出て、雨宮由衣が道端を歩いていると、突然後ろからクラクションの音が聞こえ、銀灰色のポルシェがゆっくりと並走してきた。
窓が下がり、運転席から端正で目を引く顔が覗いた。
「雨宮白!」車内の人が彼女に声をかけた。
雨宮由衣は意外そうに足を止めた。「橋本羽?」
「乗って」
雨宮由衣は路肩での長時間停車が難しいことを理解し、素早くドアを開けて助手席に座った。「通りがかり?」