第296章 なぜ彼でなければならないのか

「セックス、恋人は?ワンナイトは?」雨宮由衣は真剣な表情で続けて尋ねた。

なければ一番いい。もしあるなら、彼の黒歴史を事前に処理しなければならない。

由衣があまりにも直接的に聞いたせいか、等々力辰の背筋がより一層ピンと伸びた。「ありません...」

雨宮由衣の厳しい表情がようやく和らいだ。「よかった」

そう言って、ビジネスライクに続けて尋ねた。「あなたのWeiboは今誰が管理してるの?自分で管理してる?」

「武志さんです」等々力辰が答えた。

なるほど、この3年間Weiboの更新が少なかったわけだ...

雨宮由衣は眉をひそめ、すぐに口を開いた。「わかった、私が引き継ぐわ。帰ったら全てのSNSアカウントを細かくチェックして、不適切な内容は即刻削除して。私がチェックするから」

等々力辰は反射的に相手の指示に従った。「はい」

「そうそう、会社から基本給は出てる?」由衣が尋ねた。

等々力辰は苦々しい表情を浮かべた。「半年ほど出てないんです...」

「じゃあ、この期間何をしてたの?」由衣が聞いた。

等々力辰は少し恥ずかしそうな表情を見せた。「私は...アルバイトを...」

芸能界に関係する仕事はできず、個人の仕事も受けられない。そうすれば会社から訴えられるので、アルバイトしかできなかった。

雨宮由衣は表情を冷たくした。

契約タレントには基本給があるはずなのに、周藤史良は彼に仕事を与えず、契約も手放さず、さらにこの基本給まで止めてしまう。まさに追い詰めようとしているのだ。

その少ない基本給は、他のタレントなら一つの仕事、雑誌の撮影数枚で稼げる額だが、等々力辰にとっては会社から得られる唯一の収入だった。

想像するだけでもこの3年間がどんなものだったか分かる。才能と輝きを持ちながら、本来なら芸能界で才能を存分に発揮できたはずなのに、毎日最底辺の関係のない仕事で糊口をしのぐしかなかった。

等々力辰はおそらく、あと2年我慢すれば他の事務所と契約できると思っていたのだろう。でも、最も大切な5年間を無駄にしただけでなく、契約が切れたとしても、周藤史良のやり方なら、絶対に彼に這い上がるチャンスは与えないだろう。

誰も過去の人で問題を抱えたタレントなんて欲しがらない。