第357章 彼はただの普通の人

「ごほん……当主……申し訳ございません……」

運転ミスでした……

先ほど雨宮由衣が当主を両親に会わせたいと言ったのを聞いて、井上和馬は興奮のあまり、誤ってアクセルを踏んでしまったのだ。

井上和馬は魂が抜けそうになるほど驚き、急いで震える手で当主の手から落ちた携帯電話を拾い上げて返した。

そして顔を上げると……当主の表情が……今までに見たことのないものになっていた……

まるで大敵に遭遇したかのように、何か非常に厄介な事態に直面したような表情だった。

ただし、怒っている様子はないことは確かだった。

うーん、当主はもしかして義理の両親に会うことに緊張しているのだろうか？

井上和馬は慌てて余計な妄想を振り払い、「あの、当主、結衣様をお待ちしましょうか？」

「錦園に戻れ」

「はい」