第355章 庄司輝弥への電話

雨宮由衣がそう話している時、彼女の手の中の携帯電話が点滅し、通話中の状態を示していた。

数分前、雨宮家の屋敷の外。

影に隠れた車の中で、男は冷ややかな表情で後部座席に座っていた。

前方の運転席で、井上和馬は既に30分ほど黙々と愚痴をこぼしていた。

先ほど錦園に戻るはずだったのに、主が突然方向を変えるよう指示し、別の物件に向かうと言った。しかし、途中で突然停車するように命じられた。

彼はなぜ主がほとんど行ったことのないその物件に向かおうとしたのか、そしてなぜ途中で停車させたのか不思議に思っていたが、停車した場所が雨宮家の屋敷の近くだと気づいた。

なるほど！別の物件に行くのは嘘で、愛妃を見に寄るのが本当の目的だったのか？

井上和馬が愚痴をこぼしている時、庄司輝弥の携帯電話が突然鳴り、心臓が飛び上がるほど驚いた。

そして彼が横目で見ると、着信が...雨宮由衣からだと分かった。

なんだ！彼女は今、中で祖父の誕生パーティーに参加しているはずじゃないのか？

こんな時に主に電話をかけてくるなんて、何のつもりだ？

不安に思っていると、後部座席で、男は少し躊躇した後、通話ボタンを押した。

次の瞬間、少女の声が携帯電話から流れ出た...

「黒田さん、マイクをお借りしてもよろしいでしょうか？」

この言葉を聞いて、後部座席の男の瞳が僅かに暗くなった。

井上和馬は呆然とした。これはどういう意味だ？

雨宮由衣は誰かと話しているようだ？その相手の姓が黒田？まさか...黒田悦男じゃないだろうな！

続いて、雨宮由衣の言葉が次々と聞こえてきた...

「ご列席の皆様、親愛なる友人の皆様...」

「本日ここで、私、雨宮由衣は、この瞬間をもって、黒田悦男様との婚約を正式に解消することを、残念ながら皆様にお知らせいたします...」

「黒田さん、あなたの怒りはお察しします。でも申し訳ありません、私はもうあなたに対する感情がありません...」

「私には既に好きな人がいます...」

...

...

同時に、宴会場内で、黒田悦男は雨宮由衣の脅しを聞き終わった後、瞳孔から冷たい光が走った。

彼は当然、自分の婚約者が庄司輝弥の女になったことを誰にも知られたくなかった。