一方。
雨宮由衣は既に安全な場所へと移送されていた。
「雨宮様、飛行機にお乗りください」暗殺衛士の一人が冷たく言った。
雨宮由衣は無表情で二人の暗殺衛士を一瞥し、「誰が行くって言った?」
もう一人の暗殺衛士は落ち着いた口調にも若干の苛立ちが滲んでいた。「雨宮様、今は非常に危険な状況です。ご自身の命を軽々しく扱わないでください」
彼らは本来なら主の側で警護すべき身、それなのに一人の女を護衛するために派遣され、その女がさらに次々と問題を起こす。どんなに訓練された者でも、もう限界に達していた。
雨宮由衣は暗殺衛士の言葉を無視し、黙って手元に置いていた箱を素早く開けた。
箱の中には衣服ばかりが入っていた……
雨宮由衣は黒いベールのドレスと黒いベールの古風な小さな帽子を取り出して素早く身につけながら、腕時計を確認し、すぐに二人の暗殺衛士に向かって言った。「他に何人隠れている?全員出てきて、この箱の中の服に着替えなさい!」
こんな時に、まだ着替えどころか、彼らにまで着替えろと?
この女は自分が何をしているのか分かっているのか?
暗殺衛士は深く息を吸い、「雨宮様、どうか……」
雨宮由衣の眼差しは一瞬にして氷のように冷たくなり、強大な威圧感を放った。「黙りなさい。あなたたちの主が死ぬのが嫌なら、すぐに私の言う通りにしなさい!もう一度言います。全ての暗殺衛士を集合させ、三分以内に着替えを済ませなさい!それから、私について来なさい!」
この女は何を言っているんだ……
やっと逃げ出せたのに、戻るというのか?
この女は命が惜しくて主を見捨てたんじゃなかったのか?
「デスローズを知っていますか?」雨宮由衣は暗殺衛士部隊隊長を見た。
その名を聞いて、暗殺衛士部隊隊長の表情が僅かに変化し、しばらく言葉を選んでから答えた。「伝説の組織ですが……」
殺人同盟が残虐なだけなら、デスローズは一つの国を滅ぼすことができる。しかし、デスローズの組織メンバーの姿を見た者は誰もいない。なぜなら、見た者は全て死んでいるからだ。
この女は突然なぜそんなことを?
そもそも彼女は、彼らのような立場の者でさえ滅多に知らないような組織のことを、どうして知っているのか?